エレベーターを降りると 明るく整然とした廊下が続いていた
一番奥の扉を開くと 見覚えのあるずんぐりとした背中が布団から出ている
私 「 Fさん … 」
振り向くと両眼から涙が溢れ 敷布団に落ちていく
私 「 心配しましたよ 」
Fさん 「 うん … 」
私 「 帰りましょうね …歩けますか? 」
Fさん 「 うん … 」
通行者から警察通報があったのは早朝
雨の中で 自転車と一緒に倒れていたらしい
前カゴに入っていたパック酒は殆んど無かったとのこと
白内障の手術を控え 夜中に覚醒し
「 ジッとしていられへんで 自転車でウロウロしていた… 」 記憶はここまで
眼科の医師から
「 白内障が進行しているから難しくって 時間が掛かるって言われたんや 」
と、うつ向かれる
麻酔が効かなかったら… 見えなくなったら… と不安が恐怖に変わる
私 「 手術が終わるまで一緒にいますからね 」
Fさん 「 うん 」
ポケットに入っていたケータイには アドレスに4人の名前
Fさんがうわ言で呼んでいた名前に連絡が入るのも無理はない
看護師 nana