翌日。私はまた、昨日と同じように本屋へと向かっていた。
唯一違うことといえば、九時―開店と同時に向かった、ということだ。
「いらっしゃいませ~」
カランコロンというベルの音と共に聞こえる、店員さんの明るい声。
でも、もうここは私にとって、実家のような居心地のよさがあった。
今日の一番客は私だ。なんだか一人で少しうれしくなっていると、誰かが入店してきた。
昨日と同じように、小説コーナーの中に入る。コーナーをぐるっと見渡した瞬間、さあっと血の気が引いた、
…なんて表現は大袈裟だろうか。でも、それくらいの感覚だった。
「―…うそ。ない。今日もない…!」
悲鳴に近いような声が口から漏れる。
さすがに一日じゃあ手配できなかったのだろうか。まあ、人気作品だからな…。
そう自分をなだめてみるものの、気分はどん底だ。
ないなんて思っていなかったから、心の準備ができていなくて。私はガクッとその場に崩れ落ちた。
全部読み終わった~~!!
自分でも驚いていた。七百ページ近くある本を、一晩で読み終えてしまったのだから。
でも俺はそれくらい、本の世界に没頭していたのだ。
やっぱり、桜井 美奈子さんは天才だ。読者を、一瞬にして引き込む力を持っている。
今日も、昨日と同じく九時くらいに本屋を訪れた。バックにはもちろん、昨日買った本をしまい込んでいる。
それは俺にとって、もうお守りのような存在だ。
いつもと同じく、ルンルン気分で小説コーナーに足を踏み入れる。
今日本屋に来た目的は紛れでもない、桜井 美奈子さんの小説を買うためだ。
人気小説家の彼女には、過去にたくさんの作品がある。
それをすべてコレクションすることが、今の俺の大きな夢だ。
「うそ、ない…今日もない…!」
突然、隣から大きな声が聞こえてきて、反射的にばっと声のしたほうを向く。
隣に、人がいたのか。心臓が飛び出るほどに驚いた。
それくらい、自分の世界に入り込んでいたのか…。
俺の悪い癖だ、と心の中で反省する。どうにも昔からマイペースすぎるのだ。
ふと意識を戻すと、そこには、昨日見かけた女の人が、呆然と立ち尽くしていた。
彼女は急にへなへなと崩れ落ちた。どうやらよっぽどショックだったみたいだ。
「…あの、大丈夫ですか?」
挙動不審な彼女に、恐る恐る尋ねてみる。
すると、しゃがみこんでいた彼女はばっと立ち上がり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、恥ずかしそうに俯いた。
そして、小さな声で、
「大丈夫です、すみません…。欲しかった小説が売ってなかったもので…。」
と謝った。
目が合った。
彼女は、艶のある短めの黒い髪を揺らし、白い肌をしていた。漆黒の瞳は、長いまつ毛に揺れている。
肌が白いので、桜色の唇が映えていた。
こんな綺麗な人、存在するんだ…。
俺は固まってしまった。
それが、彼女―あきとの出会いだった。