その日、私―水谷 愛紀は、行き場のないこの気持ちに、頭を抱えていた。
「『恋と季節の狭間に』なんでないのー」
ずっと、ずっと待ち望んでいた本が、本屋のどこにもないのだ。
大好きな筆者、桜井 美奈子さんの新作だ。十二月に発売されることを知り、かれこれ四か月。
カレンダーに今日という日に印をつけるほどには、楽しみにしていたのに。
本屋の店員に尋ねると、
「すみません、先ほどのお客様で生憎売り切れてしまいまして…。人気作品ですので…。」
と、申し訳なさそうにペコペコ頭を下げた。
さすがに、店員さんにあたるわけにはいかない。
「…わかりました。ありがとうございます。」
精一杯振り絞って出したはずのその声は、ほかの店員さんの元気な声でほとんどかき消された。
その日、俺―広瀬 春紀は、高揚感に胸の高鳴りが止まらなかった。
「うおー!!やっと買えたー」
思わず大きな声が出てしまい、店員から煩わしそうな顔で睨まれて、はっ、と我に返る。
ここが本屋なことを忘れていた。
手に持っていた、『恋と季節の狭間に』という小説がプルプル震える。
ずっと、ずっと待ち望んでいた本が、ようやく手に入ったのだ。しかも、なんとラス一で。
お気に入りの筆者、桜井 美奈子さんの新作。十二月にネットニュースになっていて、かれこれ四か月。
一週間前からうずうずしながら毎日本屋に駆けつけるほどには、楽しみにしていた。
その時。
同い年ぐらいの女の人が、小説コーナーでうなる様子が目に飛び込んできた。
―もしかして彼女も、この本が欲しかったのだろうか。
少し申し訳なさを感じながらも、俺は全速力で家へと向かった。
なかったものはしょうがない。
頭の中で、何度も自分を慰めるものの、気分はちっとも晴れない。
また明日、行ってみればいい。あるかどうかはわからないけど、開店と同時に。
気力がわかなくて、机の上で突っ伏していることしかできない。
「はぁ~…。今日読みたかったのになあ…。」
カレンダーの星印を見て、ぽつりと呟いた。
ちょーー嬉しい!!
興奮しながら俺は家へと帰った。マンションの外観が見えたとたん、足が止まり、荒い呼吸を整える。
ガチャ、とドアノブを回して、うちへと入る。
飼っている猫の頭をわしゃわしゃ撫で、手を洗うことすらも忘れて、椅子に腰かけた。
ふぅ、と軽く息を吐き、買った小説のページを開く。
驚くほどに一瞬で、俺は本の世界へと入っていった。