あっと言う間に一年の半分が終わりました。

 

暑い暑いと過ごしているうちに、これまた、あっと言う間に年末に

なりそうな気がしています。

 

 

 

 

 

 

 

トモコとアベイの続きです~。

 

 

 

 

店の外に出ると、アベイたちはすぐそばにいた。

 

バブのふてくされている様子が見てとれた。

 

アニクが何か話しているが、母国語なのでわからない。

 

近づいたトモコにアベイが気づき、目が合った。

 

「Oh・・・」

 

トモコもなにか言わなければと考えたが、こんな時、なんと言えばいいのか

わからない。

 

アベイも同じ気持ちなのだろうか。

 

なにかを言いかけていたが、続きを話すことはしなかった。

 

アニクとルドラが交互にバブに話しかけているが、バブは舌打ちをしたり、

顔をしかめるだけで、言葉はなにも発さなかった。

 

ふてくされた態度を変えないバブに、言うことのなくなったアニクとルドラは

呆れた様子で溜息をついた。

 

気まずい空気だけが漂い、誰もなにも言えなくなっていた時、サキが叫んだ。

 

「あのさ! バブ! そんな態度だったら、もう別れるよ!」

 

大きな目を見開き、まさにギョッとした顔になったバブがサキを見つめた。

 

すべての日本語がわからなくとも、「別れる」という単語の意味は知っている。

 

これまでも何度かサキに言われたことがあるからだ。

 

 

 

 

以前、サキの家でバブが暴力を奮い、サキの娘に手が当たってしまったことがある。

 

まだ3歳の娘は、大袈裟に泣きわめいた。

 

ちょっと当たっただけなのだから、大して痛くないはずだ。

 

放っておいたら、そのうち泣き止むだろう。

 

そう思っていたら、突然サキが叫んできた。

 

早口だったのでよく分からなかったが、「謝れ」と「別れる」と言っているのだろうと

察しはついた。

 

どうせ叫んでいるだけだ。ひとしきり叫べば、おとなしくなるだろうと

無視をしていると、怒り狂ったサキに部屋を追い出されてしまった。

 

 

 

 

普段のサキは怒ることはあまりなく、従順に自分に尽くしてくれる。

 

そんな便利な女を、ましてや日本国籍を持っている女を手放す訳にいかない。

 

サキの機嫌を損ねる訳にいかないのだ。

 

「いい加減にしてよ! 子供じゃないんだから! 機嫌が直せないんだったら、

一人で帰って!」

 

「チッ・・・」

 

思わず舌打ちが出てしまった。

 

これ以上、サキの怒りを買ってはいけない。日本国籍が遠ざかるのは本意でない。

 

「ワカッタヨ・・・ホラ、モドッテ メシヲクオウ。」

 

バブは左腕をサキの肩に回し、二人でさっさと店に入ってしまった。

 

 

 

なんだあれ・・・

 

 

トモコはサキとバブのやりとりを見て、不安になってきた。

 

 

 

アベイもそうなの? アベイも怒ると暴力を奮うの?

 

 

「トモコ、イコウ」

 

アベイに声を掛けられ、はっと我に返った。

 

アベイは穏やかな表情でトモコを見つめている。

 

目を合わせていることに抵抗を感じ、目を逸らすと、アニクとルドラも店に

戻っていく姿が見えた。

 

「あ、うん・・・」

 

 

 

大丈夫なのだろうか・・・

 

 

「お腹空いたね~。お勧めの母国料理、教えてね。」

 

トモコは不安を掻き消したい思いで、わざと明るく振る舞った。

 

 

続きます。