今までもらって嬉しかった手紙というお題。
いくつかあるが、その中の一つをお話しよう。
数年前、小さい頃もらった手紙が使わなくなった机から出てきた。
亡き祖父が海外から送ってくれたエアメール。幼稚園の頃のこと。
祖父は学者で学術講演で海外に招待されることが多かった。
近所の人に「おじいちゃん、最近どうしてる?」と聞かれると「講演にいってる」と答える。
大概の人は”公園”に散歩に行っている、と勘違いするのが可笑しかった。
忙しい中、書いてくれた手紙のインクはもう薄れてしまっているが、家族みんなへの愛を感じた。
幼稚園のときは、祖父にお土産をもらうよりも、渡航先からの手紙が楽しみだった。
見たこともない異国の風景を想像すると、どんな絵本よりわくわくした。
「今に英語が話せるようになったら、一緒に海外に行こう」と言ってくれた祖父。
小学校3年のとき祖父は他界。約束は果たせなかったが、英語は今でも勉強している。
世界の人の役に立つ仕事ができれば、祖父も喜んでくれると思う。
祖父は癌で倒れたが、死の間際まで学者だった。生前、数多くの発明もしたが、世の中の役に立てばとすべて社会に還元した。
こういうものを作ったと私が語れば、もう少しわかりやすいかもしれないが、名誉欲のなかった祖父のこと、嬉しいとは思うまい。
でもこれだけは言わせてほしい。
病院で死去した祖父の枕下から一つのメモ帳が出てきたという。
当時は、癌の疼痛を抑える医療用麻薬の使用量が現在よりはるかに少なく、激痛と戦わざるを得なかった。癌の疼痛、病状について細かく自覚症状が記載されていた。最後の方は、文字が読み取れないくらいに乱れていたらしい。
病院ではこのメモ帳を医学の役にたてたいと、祖母に提供をお願いしたという。
祖母は快諾。
今、私は薬学の世界にいる。病院勤めしたこともある。
癌の患者さんとも接した。
いわゆる緩和ケアは格段に進んでいて、昔のように痛みでのたうち回るようなことはない。
祖父の最後のメッセージが、緩和ケアの進歩に少しでもお役にたてたのならば祖父もよろこぶことでしょう。
写真は小生所蔵、小説家谷崎潤一郎氏の書簡。
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