「おう若造! 今度の嫁さんは生きてるらしいじゃねぇか!
 やっと”花嫁殺し”返上だな!!」

真国にある軍において、将軍と称される人物は15人いる。
郭玄偉はその中で最年少であったから他の将軍たちからは若造、と呼ばれていた。
何しろ他の将軍たちのほとんどは郭玄偉の親世代よりも年齢が上なのだ。

がはは、と豪快に笑いながら郭玄偉の背中をばしばしと叩いてくる男。
真国朱軍の張将軍である。
背が高い分横にも大きく、というか何もかも大きく、声もまた無駄に大きい。

「張将軍」

大声の主の名を、その副官が控えめにしかし咎める意図は隠さずに呼んだ。
何もかも大きい男を補佐する立場の彼は反対にさほど背は高くない。
生真面目で折り目正しい彼は篤翼といい、なぜか昔から張将軍のお気に入りである。
何もかも大きい男は何もかもが大雑把だからそこを補う必要があるからかもしれない。

大丈夫だ、と目線をやると申し訳なさそうな目礼が返ってきた。
これもまたいつものことである。

「なあに、めでたいことだからいいじゃねぇか。
 若い嫁さんもらって最初っから励み過ぎんじゃねぇぞ? 
 ぐっと堪えてすこーしづつ教えてゃらねぇと」

すこーしづつ、と時手のひらを前に向けてわさわさと動かす。
にやにやと笑いながらこいつは絶対になにかを想像している。

「ご心配なく」

相当無体なことをしておきながら郭玄偉はしれっと答えた。
張将軍はいつもこんな感じである。慣れたものだ。

「くれぐれもなー、翼みてぇになるんじゃねぇぞ?
 若い嫁さんはそりゃ魅力的だとは思うけどな」

自分の名前が出たせいか、びくり、と目に見えて副官は動揺した。
どうやら妻の話は彼の弱点らしい。

「翼ときたらやーっと貰った秀身堂 嫁さんにめろっめろでなぁ~。
 俺と飲む時間すら惜しいってさっさと帰っちまうの。
 上司(おれ)よりも仕事よりも大事なんだって~」

「しょ、将軍!」

「せっかくここまで育ててやったっつーのによぉ~。
 そりゃとっとと嫁さん貰えとは言ったけど、
 ここまでないがしろにされちまうと寂しいよなぁ~」

だから若造、今夜は一杯付き合えよ! とまた張将軍は豪快に笑うと大きな足音を響かせて去っていく。
顔を真っ赤にした副官は置き去りにして。

「……副官殿もさんべんぼう 苦労されるな」

「……もう諦めました」

郭玄偉と篤翼は互いに顔を見合わせてぎこちなく笑い合った。
その後彼らはなんとなく仲良くなってしまい、それが原因で
かまってもらいたがりの張将軍に色々ちょっかい出されまくってしまうのだが、
それはまた別のお話。
「誰の料理から召し上がりますか?」
 エリンの言葉に、アクはクスリを見た。
「そうね、ここでいきなりクリスのを食べちゃったら、面白くないわね・・じゃあ・・地味なルカさんの頂きましょうか」
「あたしも、クスリの意見に賛成よ」
「そう?」
 ルカが地味といわれたショックと、緊張とで沈んだテンションのまま料理を運んできた。
「・・・・・ぱく」
 二人がルカの目の前で食事する。
「あー・・?」
「そうね、美味しいわよ・・ただ風の料理を出されても良く分からないわ」
 イマイチな反応だった。
「じゃあ、次はルミでもいっとく?」
「いっとく?って・・嫌な感じね」
 ルミも料理を出す。
「薄いわ」
「はやっ!?」
 クスリの一言で流された。
「エレストは最後で、次アイリーン」
「アイリーンさんの料理・・美味しそうですね」
「えぇ、よくウィルv26 カプセル マの分も作っていますですの」
 置かれた料理に口を運ぶ。
 彩りに飾られたメインに、バランスを考えた野菜の盛り合わせ・・美味しく頂きました。
「ごちそうさま」
 アクがそういって満足そうに笑った。
「高評価です、今のところアイリーンさんが一位ですか?」
 エリンの質問にクスリは微笑んだ。
「では、次ラッカさん」
「あら、おいしそう」
「鍋か」
 肉と野菜がふんだんに使われた鍋には味がシッカリしみこんでおり、美味であった。
「あー、おいしかったわ」
「そうね」
 クスリは微笑みながらアクの口元を拭いた。
「次は、リーファでもいっとくか」
「でもってなによ!」
 持ってきたものは黒焦げのぷすぷす口から泡吹いているアンコウもどき。
「・・・・・・・・」
 クスリは笑顔で皿をアクのほうに横流しした。
「てぇええ!?」
「アクちゃん、悪魔でしょう?大丈夫・・ね?私を信じて」
「いやいやっつってもアタシ下級悪魔だしさぁ・・それにその皿持って人の顔を掴むのやめてくれないかな?怖い・・って!?ぎゃああああああああああ」 
 強制終了。
「モー何よぉ!人の料理をぎゃーって!!」
「じゃあアナタ自分の料理食べる?」
 モザイクかかったソレをクスリは黒笑みでリーファに突きつけた。
「ご、ごめんなさ・・」
「早くも波乱の予感です・・分かりきったことですけど」
 エリンの言葉に傍観していたお客さんが頷く。
「私のを食え」
 そういって、クスリとアクの目の前に新たな生命の出来損ないをエレストは堂々とおいた。
「・・・・・・・・・・・」
 クスリは黙って机の上から落とした。
「チッ」
「ごめんなさい、手が滑ってしまって・・ふふふ」
「では、お口直しにワタクシのをドウゾ」
 ヴァニラがお皿を置いた。
「アクちゃん、起きて」
 頬を叩いて起こす。
「ぷっぷ・・なんとかかぁー旨そうだね」
 アクは喜んで口の中に入れた。
 ・・・・そして黙った。
「おいしいっちゃ美味しいんだけど」
 アクが首を捻った。
「濃い・・てか味がひつこい」
 カキン
 何故かアクでなく、傍観客が氷づけにされた。
 エリンはひきながらも視界を続ける。
「では、次にリンさん!」
 リンが普通のテンションで「ん」と料理をおいた。
「なんだ?チャーハンか」
 口に入れる。
「・・・・・・・・・・」
「どうなの?アクちゃん」
 アクがリンを見た。
「お前」
「?」
 リンが背中を見せた。
「ふ・・感想を言うのは、野暮ってもんだぜ」
 カッコよく去ろうとしたが、クスリが一口食べて一言。
「普通に不味いわ」
 リンは走って逃亡を図った。
「・・・・えー、では仕切りなおして最後に優勝候補のクリスさんの料理を!」
「ないわよ」
 クリスがきょとんとしながら言った。
「え?」
「さっきリン秀身堂 が食べちゃった。冷めちゃったから・・いっかなーって」
「じゃぁ、優勝は・・」
「リーン!!!楽しみにしてたのに!」
「あら、まってよアクちゃん!!」
 怒りに駆け出したアクを追ってクスリも去ってしまった。
「えー・・あのぉ・・優勝者は・・?」
「私でしょ」
 クリスは笑顔で言った。
「私の料理で二人は消えたのよ?」
「そういうわけにもいきませんよ!」
 ヴァニラが叫んだ。
「でもヴァニラさんに優勝は無いけどな」
 村人の言葉に反応
「でしたら、私の料理を皆さんにふるいましょう!!」
「えー」
「なんですか!!」
春一番が、男の悲しみを吹き消そうとしている。春の訪れを、待つかのように、覆われていた雪が解けようとしていた。
男は、カウンターで落ち着きが感じられる。入って来た時の、悲しみに充ちた表情は、影を潜めているようであった。
 幸司は、それを見ながら、ある清酒を用意する。もっ切に、注がれたお酒は、溢れそうで今にも毀れそうだ。
「神亀なんか。いかがでしょうか?」
 それに続いて、幸司が分かりやすく、お酒の説明を始める。
「少し、口あたりはピリッとしますが、実に旨いお酒ですよ」
「埼玉のお酒です、酒名は、蔵の裏の天神池に住むという。神の使いの亀にちなみます」
「これは、槽口(ふなくち)と言いまして、圧力をかけずに流れでる酒だけをつめた、度数の高い薄いにごり酒なんです」
 幸司は、お盆にお酒を注いだ、もっ切りを置く。そして優子に、手渡した。
 優子は、ニッコリと顔に笑みを浮かべ、男の前に神亀をおいた。男は、ゆっくりと口に含みながら酒を味わっている。
「なんせ、神の使いの亀ですから、家族の分も、長く生きてもらいたいと思いまして。幸せになって貰いたいですし」
 幸司の思いやりのある演出は、男の渇いている喉越しを潤している。味わい深い酒は、至福の時のように思えた。
「あなたが、幸せになることが、一番大切なんですよ」
「悲しいのは、解りますが、一歩ずつでも、ゆっくり前へ、進んだらいかがですか」
「亀は、のんびり前に進む、慌てず、急がずなんです」
 優子は心を込めて、男に話しかけている蟻力神 。カウンターの横に、腰かけながら、男の表情を確認するように優しく微笑んだ。
 男の目からは、涙がにじむ。なにかを考える言葉であった。

 頃合いを見て、幸司は4品目に取り掛かる。手さばきがよく、隙がない仕事ぶりが見事といえる。
「はい、お待ち。山菜の白和えです」
 男は、意外そうに口を開く
「白和えですか。懐かしい味だ」
 男の目蓋からは、涙がにじみ出ていた。
(女房が、見様見真似でよく食べさせてくれた)
 家族団欒が、懐かしく思える巨人倍増 のか、ハンカチで涙を拭う仕草を見せた。感動する味に、心は浄化されていく。
「山菜は、自生植物です。雨や、嵐にも負けないんですよ」
「長い、冬ごもりの末、根茯くんです。豆腐は、真っ白な雪です」
「貴方の心を、浄めるために、この一品にしました!」
 男の顔に、笑みが戻ってきている。心は落ち着きを取り戻し、人生の方向性を考えていた。