太宰治の作品から 斜陽②の続きです。

 

 

 

 


 夕日がお母さまのお顔に当って、お母さま

のお眼が青いくらいに光って見えて、その幽

かに怒りを帯びたようなお顔は、飛びつきた

いほどに美しかった。 

 

そうして、私は、ああ、お母さまのお顔は、

さっきのあの悲しい蛇に、どこか似ていらっ

しゃる、と思った。 

 

そうして私の胸の中に住む蝮みたいにごろ

ごろして醜い蛇が、この悲しみが深くて美し

い美しい母蛇をいつか、食い殺してしまうの

ではなかろうかと、なぜだか、なぜだか、そ

んな気がした。 

 


 私はお母さまの軟らかなきゃしゃなお肩

に手を置いて、理由のわからない身悶えをし

た。