今をときめく河村たかし名古屋市長と、一度二人だけで食事を共にしたことがある。15年ほど前になろうか。店ははっきり覚えている。彼がいきつけのやきとん屋に誘われたのだ。勤め帰りのサラリーマンたちが立ち寄る庶民好みの店だった。食べた肉がかなりかたくて、胃に負担を覚えた感じが未だに残っているような気がする。あの頃から、彼は時代の風を起こすことに敏感だった。当時は、NPOに先駆的に取り組んでいた。その後は、税金の無駄遣いの追及などで名を馳せた。民主党の代表選挙にもしばしば出ようとしたものの、20人の推薦人が集まらず、断念したことが知られている。


 その主張が破天荒であるため、民主党の中でも共鳴する人が少なく、市長に立候補することになった時は、民主党内に安堵感が漂ったと聞く。その主張は正論ではあるものの、いわゆる常識をいささか超えており、一般的には理解されにくい。ただし、時代の空気はそれなりにとらえている。市長に転身して議会とはことごとく衝突しながらも、市民の心は巧みに掴んだ。こだわる主張は二つ。議員の報酬半減と議員定数削減。そして、減税。今回の市長選挙でも、このことをいいまくって、70%近い驚異的な得票をえた。


 旧知の名古屋事情にくわしいジャーナリストに言わせると、かなり小泉元首相に手法が似ている、と。要するにワンフレーズポリティックスだと彼は、いいたいのだ。今はいいけど、早晩破綻することになろうと手厳しい。まずは大村知事との二人三脚がどこまで続くか、だとも。


 私としては、河村氏の投じた一石が日本中にある種の緊張感をもたらしていることを評価したい。今後は新しい議会側の立ち直りと巻き返しに期待する。市長の暴走を許さず、しっかりチェックするのがその使命だからだ。