「出来るだけ中国の隅々まで足を伸ばし、大衆の生の声を聴いてみたい」―先日、中国に赴任する直前の丹羽宇一郎(元伊藤忠商事社長)新大使は抱負をこう語った。衆議院外務委員会の理事との懇談の際に、任期中に何をしたいかと私が訊いてみたときのことだ。日中FTAの締結を強く望みつつ、他方で民間出身の大使としてその経験を最大限活かして頑張りたいとの強い意欲がうかがわれた。


 経済人としての丹羽新大使の活躍の場面は多々あろう。ただ、日中関係はそれだけではない。しっかり腰を据えてやってもらわねば、思わぬところで足元をすくわれよう。ご本人は、様々なアドバイスをメールででもいただければありがたい、と言っておられたのには好感が持てた。これまでの官僚出の大使では考えられない軽快な言い回しが印象的であった。ただし、同時にこの人は失言で問題を引き起こさないかな、との懸念を持った。失礼ながら少しはしゃぎすぎておられるのではないか、とも思わないではなかった。


 直後に開かれたある会合で、同大使は、中国の軍事力増強について「大国としては当然のことといえば当然かもしれない」と述べた。これに対して、一部のメディアが社説で「不用意発言は国益を損なう」として、中国の軍事力が日本の脅威になりかねないとの認識がないとの角度から批判をしていた。同じ講演の後半で「大国としての自覚を持て」と述べられていたというから、私は、目くじらをたてることでもないとは思う。


 民間経済人として、今までの大使ではできえなかった交流を積極的に展開して、日中新時代を開いてもらいたいとまずは期待を表明しておく。