縁は異なもの味なものと言う。先日、宍粟市山崎町を訪れ、新旧の市長に挨拶をするために、表敬訪問をした際に、偶然にとてつもない人に出会うことができた。選挙に落選した前の市長に会うため、彼がかかわる「播州山崎花菖蒲園」に行き、石楠花咲き乱れる素晴らしい園内を見せていただいた。そのあと、隣接する「山崎伝統園芸植物研究所」の所長・荻巣樹徳さんに会わないかと誘われた。全くの予備知識もなくお会いし、研究所内の庭にある伝統園芸植物について、荻巣さんに直接いささかの説明をしていただいたのだが、恥ずかしながら後になって、大変な人物だということが分かった。 


 伝統園芸植物とは何か。「江戸時代の園芸家が彼らの価値観に基づいて野生植物を選抜育種し、園芸品種として鑑賞の対象としたもの」を言う。荻巣さんは若き日より日本の伝統園芸植物の栽培技術とその精神を学んだ後、ベルギーや英国に渡り実地の研鑽に励んだうえに、中国・四川大学に留学。今日までに世界各地を、「幻の植物を追う」かのごとく調査に歩いたとのこと。園芸植物の起源を求め世界を訪ね歩く彼を、欧米では「伝説的な植物探検家」と呼び、平成8年には英国王立園芸協会のヴィ-チ賞を受けている。が、日本ではあまり知られていない。こうしたものを体系的に保存しているのは、日本で唯一つこの研究所だけということにも驚いた。関西電力が企業メセナで支援していると聞くが、後進を育てるシステムは未だ確立していない。政治的には、野生の植物の保全は環境省。食糧に絡むような植物は農水省。しかし、こうした伝統園芸植物はどこの役所も関与しようとしない現実がある。そうしたことから、先細り一方になりつつある。マスクをされていたので、口元は見えないものの、精悍そのものにみえる58才の荻巣さんの「私がいなくなればそれでおしまいです」との言葉はずっしりと胸に響いた。なんとか応援しなければ、との思いに強くかられている。