問題発言をすることで、久間さんは閣僚辞任をし、結果として安倍内閣を崩壊させようとしているのではないか―これは今年の初めに久間防衛相が、米国によるイラク戦争突入について、米政府批判ともとれる発言をして問題になった際に、ある国際問題の専門家が真面目に私に語ったコメントである。当時、同氏はあるところで、発言の背景を聞かれて、自他共に許す囲碁通らしく、先を見越した上での布石だとの意味のことを述べられたという。イラク特措法2年延長問題で、民主党の批判が強くなると予測されていただけに、宥和的態度で民主党に好感を持ってもらおうとでも思ったのだろうか。


 今回の「原爆投下はしようがない」発言は、さすがにご本人も布石だとはいえなかったようで、直ちに辞任の道を選ばれた。これこそ、「しようがない」といえよう。この言葉ほど、日本人として聞き捨てならないものはない。床屋談義ならいざ知らず、大臣としての公的発言とあっては、能天気にもほどがあるといわざるをえない。被爆者の思いを踏みにじるだけでなく、対米交渉時におけるカードとして使えるものを、こういった発言をしてしまえば、元も子もなくすわけで、すべては“おじゃん”ということになる。


 “知恵者”の誉れ高い同氏のことゆえ、単なる失言というのはどうにも信じられないとの見方もないわけではない。口さがない連中は、国会当初での発言の場合は、何かとお金にまつわる問題で身辺が取りざたされていただけに、政治とカネで追い込まれるよりも、むしろ専門分野における見解の相違で追い込まれたいとの思いがあったのでは、としたり顔で言っていたものだ。今回こういう風になってしまい、やはり、なにゆえの自爆辞任なのか、との疑念がどうしてもつきまとう。


 久間氏に替って小池百合子前環境相が後釜に就任した。この人はまた安倍首相と拉致問題など対北朝鮮政策できわめて近い関係にある。ソツのない仕事をされるとは思うが、首相を嫌う人はますます嫌うことになるに違いない危うい人事ではある。間違っても“無理心中”などということにはなってほしくない。