Chris Good

 

Chris Good氏は国際情勢を担当するCNNのプロデューサー。

 

米国政治や外交政策に関する報道、分析に携わっています。

 

Chris氏の見解記事です。

 

 

 

米国のトランプ前大統領が有罪評決を受けました。

 

ニューヨーク州地裁の陪審団は先月30日、トランプ氏が口止め料の支払いを指示

 

してポルノ女優、ストーミー・ダニエルズ氏との不倫関係を隠蔽し、

 

2016年大統領選を有利に展開しようとしたとの判断を下しました。

 

評決は、米国史上特異な出来事でした。

 

 

 

ただ世界を見渡せば、事情は変わってくる。

 

国の指導者に対する刑事裁判及び有罪判決は安定かつ成熟した民主主義国で

 

過去に起きており、かつての専制国家でも同様。

 

そこに見られるように、元指導者は刑事上の有罪判決を受けた後で力を失うことも

 

あるが、必ずしも表舞台を去るとは限らない。

 

有罪を宣告されたリーダーたちの実績から分かるのは、

 

彼らのその後を予測する試みがいかにリスクを伴う行為であるかということだ。

 

 

 

該当する事例を数え上げればほとんどきりがない。

 

 

Argentina's Vice President Cristina Fernandez de Kirchner waves as she attends a party rally inside the Diego Maradona stadium, in La Plata, on the outskirts of Buenos Aires, Argentina November 17, 2022.

 Cristina Elisabet Fernández de Kirchner(1953年2月19日 − )

 

 

アルゼンチンでは22年、当時副大統領で大統領経験者でもある

 

クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏が道路工事の契約に端を発する

 

汚職の罪で禁錮6年を言い渡された。

 

 

 

Sebastian Kurz(1986年8月27日ー)

 

 

今年2月、オーストリアのクルツ元首相が議会での偽証により執行猶予付きの

 

懲役8カ月の有罪判決を受けた。

 

欧州保守派の「神童」を襲った突然の転落劇だが、クルツ氏は控訴の意向を表明、

 

 

 

朴 槿恵(1952燃月2日ー)

 

17年に韓国で、朴槿恵元大統領が奇妙な汚職スキャンダルで弾劾され、

 

後に刑事裁判の有罪判決を受けた。

 

 

 

 

かつてのリーダーたちにとって自らへの有罪宣告は政治的な助けとなるのか、

 

それとも痛手となるのか? 

 

彼らの支持者はどのように反応するのか?

 

 国の司法制度に対する世間の信頼は損なわれるのか、それとも強まるのか?

 

 

 

米首都ワシントンに拠点を置くシンクタンク、Freedom Houseは、

 

各国を自由と民主主義に基づいてランク付けしています。

 

同団体が「自由」と見なす国々のうち、00年以降現職もしくは元指導者を起訴した

 

国は全体の43%に上ります。

 

リーダム・ハウスの幹部を務めるNicole Bibbins Sedaca 氏は語りました。

 

「これは相当の数字だ。つまりトップの指導者を訴追することは、民主主義国に

 

おいて珍しいことではない」

 

「それについて人々が知るのは重要だ。なぜなら人々は往々にして、こうした事態が

 

米国をある種の停滞した後進国に変えてしまうと口にするから。

 

しかしこれは現状の制度が機能している兆候なのであり、他の多くの民主主義国でも

 

そうした制度はうまく回っている」

 

 

フランス、イタリア、ブラジルの3カ国で起きたことは、とりわけ示唆に富んで

 

いる。

 

 

 Nicolas Paul Stéphane Sarközy de Nagy-Bocsa(1955年月28日ー)

(裁判所に出廷)

 

 

世界で最も早く成立した民主主義国の一つ、フランスでは、

 

ニコラ・サルコジ元大統領が21年に違法な選挙活動費の支出で有罪判決を受けた。

 

量刑は禁錮1年だが、このうち6カ月は執行猶予がついた。

 

実際には収監されず、足首に電子ブレスレットを付けた状態での自宅軟禁を

 

認められた。

 

フランスは、元指導者の訴追がどれほどうまく行えるかを示す「非常に良い例」だ

 

Bibbins Sedaca氏は指摘。

 

過去15年でフランスは元大統領2人と元首相1人を汚職で訴追し、有罪判決を言い

 

渡した。

 

このうちジャック・シラク元大統領は11年、パリ市長時代の職員のいわゆる

 

架空雇用21件に関連して起訴された。

 

一部には、制度が持つ先入観を露呈する、もしくは制度自体が崩壊するとの懸念の声

 

もあったが、システムに対する世間の信頼の水準は過去10年にわたり安定を

 

保った。

 

実のところ、サルコジ氏は別の裁判も抱えている。

 

来年には07年の大統領選でリビアの故カダフィ大佐から違法な資金援助を

 

受けていたとする疑惑(本人は否定)を巡る裁判に臨む予定。

 

 

 

Silvio Berlusconi

 

 

イタリアでは、生前の自信に満ちた言動で知られる富豪のメディアセット創業者

 

のメディア王で元イタリア首相、シルビオ・ベルルスコーニ氏が何度も起訴されて

 

います。

 

 

Stormy Daniels 

 

 

もし読者がストーミー・ダニエルズ氏の件で内容の生々しさに衝撃を受けている

 

のなら、ベルルスコーニ氏の事例を考えてみよう。

 

 

 

「自身のいわゆるセックスパーティーに招いた24人に金銭を支払い、

 

裁判で虚偽の証言をさせたとして告発された。彼らは大半が若者だった。

 

この裁判でベルルスコーニ氏は、17歳のモロッコ人のナイトクラブダンサーと

 

金銭を介して性行為をしたとの罪に問われた」。

 

当該の刑事事件について、ロイター通信はそう報じました。

 

 

ベルルスコーニ氏は13年、未成年者買春の罪などで有罪判決を受け、

 

禁錮7年の刑を言い渡されたが、翌年の控訴で無罪を勝ち取った。

 

23年には関連する証人買収を巡る裁判の有罪判決も覆った。

 

 

12年には脱税の裁判でも有罪。

 

 

所有するメディア会社による1990年代の放映権購入に絡む罪で禁錮4年を

 

言い渡されたが、06年の恩赦法の下で1年に減刑された。

 

これとは別の禁錮1年の有罪判決は、捜査当局が盗聴した政敵の電話の内容を

 

弟の経営する新聞社に違法に漏らしたことで受けた。

 

当時70歳を超えていたため、収監の代わりに社会奉仕活動を行うことが

 

認められた。

 

活動場所はミラノ近郊にあるアルツハイマー病患者向けのホスピスだった。

 

 

こうしたことのいずれも、ベルルスコーニ氏を抑えつけはしなかった。

 

 

崩壊状態に陥ったイタリアの政界で同氏は復活を遂げ、右派の指導者としての地位に

 

返り咲いた。

 

自身の率いる政党フォルツァ・イタリアは17年の市長選で躍進。

 

18年の国政選挙では14%の得票率で右派連合に勝利をもたらした。

 

同連合はこの後ポピュリスト政党の五つ星運動と提携して政権を担う。

 

 

 

     

Matteo Salvini             Giorgia Meloni

 

イタリアの右派の中でベルルスコーニ氏の影は徐々に薄くなり、

 

代わってマッテオ・サルビーニ氏、さらに現首相のジョルジャ・メローニ氏が台頭。

 

それでもメローニ氏を権力の座に押し上げた22年の総選挙の際、

 

ベルルスコーニ氏はメローニ氏率いる連合の有力人物だった。

 

本人は昨年、86歳で死去した。

 

 

 

 

 

Luiz Inácio Lula da Silva

刑務所から釈放され、支持者に肩車されるブラジルのルラ氏

 

 

 

ブラジルのケースもトランプ氏との類似点を提供してくれるかもしれないが、

 

いくつか重要な違いがある。むしろ返り咲きという意味ではこちらの方が一段と

 

衝撃的だ。

 

03~11年に大統領を務めた後、ルラことルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ氏

 

は、「洗車作戦」の名で知られる汚職捜査によって有罪判決を受けた。

 

一連の不正なリベート、収賄を対象にしたこの捜査は、中南米を対象に広く行われ、

 

ブラジルの政界を揺るがした。

 

 

国営石油会社ペトロブラスに絡むスキャンダルが浮上したのを受け、ルラ氏は17年

 

に汚職とマネーロンダリング(資金洗浄)で有罪。

 

580日の収監中は、支持者らが房の外でキャンプをしていた。

 

ルラ氏は19年に釈放され、21年には管轄権の問題から有罪判決が無効となった。

 

 

ルラ氏の裁判を担当した判事が、検察側とテキストメッセージを交換していたことも

 

発覚した。判事はその後、保守派のボルソナーロ大統領により司法相に任命された。

 

自由の身となったルラ氏は22年の大統領選に出馬。ボルソナーロ氏と対決して勝利

 

した。

 

 

Jair Messias Bolsonaro

 

 

ブラジル社会の一部は、ルラ氏の有罪判決を「前向きなもの」と評価。

 

「法律が万民に適用される」兆候だとみなした。

 

 

 

 

 

トランプ氏はベルルスコーニ氏と同様、表面上スキャンダルの影響を受けないことを

 

証明するかもしれない。あるいはブラジルのルラ氏のように、有罪評決を有権者らが

 

別の観点で捉えるのかもしれない。

 

それぞれの党派性の度合いやトランプ氏との個人的なつながりによって、

 

有権者らの評決に対する見方は変わってくる。

 

はたまたサルコジ氏やシラク氏のように、裁判自体が単なる法律の問題でしかなく

 

なる可能性もある。

 

 

刑事上の有罪評決はトランプ氏の政治的立場に傷をつける公算が大きいように

 

思えるが、実際のところは分からない。

 

 

他国ではかつての国家的指導者が、服役を終えてからでさえも復活を果たしている。

 

 

大統領経験者の訴追と有罪評決を受け、「あらゆる領域の」政治指導者らは

 

「自分たちが民主主義国に暮らしている」ことを確認する機会を得る。

 

そこでは法律が万人に対して等しく適用される。

 

「それこそがまさしく、社会契約の存在に他ならない」

 

「政治指導者らはこうした制度について、今後どのように発言するのかを選ぶことが

 

できる」