産経新聞からです。
【米国の文化人類学者、ルース・ベネディクトは『菊と刀』で
日本について「恥の文化」と指摘し、欧米の「罪の文化」と対比した。
その論の正否は別として、恥の意識は日本人が
言動を判断する大きな基準と言えるだろう。
恥を気にして失敗を恐れるとの意見もあるが、
謙譲や潔さといった日本人の美徳の背景に、
恥の意識があるのはまちがいない。
国際連盟の元事務次長で、
『武士道』の著者として世界中で知られる新渡戸稲造が
1900年に英語で同書を著したのは、
ドイツ留学中にベルギーの法学の大家、ド・ラヴレーに
「日本には宗教教育がないというが、
どうやって子孫に道徳教育を授けるのか」と
尋ねられたのがきっかけだった。
米国人の妻にも同様のことを聞かれた彼が行き着いたのが、
幼少時から教え込まれた武士道だった。
身の処し方などその精神が、
恥の意識に強く裏付けられているのはいうまでもないだろう。
翻って、1年半前に多くの国民の
熱狂的な支持を受けて誕生した民主党政権はどうか。
違法な“子ども手当”問題でシラを切り、政権運営は迷走、
最近は米海兵隊の「方便」発言で世間を呆(あき)れさせた前首相。
自身の政治資金規正法違反事件で国民の声とは
かけ離れた理論を振りかざして党の混乱に拍車をかける元代表。
不祥事が発覚しても開き直って居座る閣僚や幹部も負けていない。
現首相は目玉公約の子ども手当を
「聞いたときはびっくりした」と宣(のたま)い、
“金科玉条”のように奉(たてまつ)っていたマニフェストを
いとも簡単に見直して政権にしがみつこうとする。
支持率が20%を切り政権担当能力を失っても、
職を辞する潔さも解散に踏み切る胆力もない。
上から下まで政権・党のどこを見ても、恥の意識とは無縁だ。
考えてみれば、恥を恥と思わない、
恥ずかしいと感じないことほど手に負えないものはない。
保守の論客だった故・会田雄次京大教授が
第二次大戦での捕虜体験を綴った
『アーロン収容所』には、英国軍の女性兵士が
捕虜の日本兵の前で恥ずかし気もなく裸になって
着替えや化粧をする様子が描かれている。
彼女たちは負けた日本兵や植民地の黄色人種を
サル程度に考えており、裸を晒(さら)しても
羞恥(しゅうち)を感じないというわけだ。
そうしてみると、現状について恬(てん)として恥じることなく、
居座りを決め込む民主党政権の有り様は、
有権者をサル程度にしか見ていないという証しなのではないか。】