昭和19年4月 爆撃機研究

大型爆撃機

山本峰雄

飛行機を大型にする、という意味は、一般に、搭載量と航続距離を増加するという点にあるのである。しかし、これには条件があるのであって、単に大型化したというのでは、話にならない。

なんとなれば飛行機が大型化すると、構造重量が増加して搭載量を構造重量で食ってしまって、ついには搭載量が零になってしまうからである。

昔ある人は、当時の知識を基礎として飛行機は20トン以上の大型にはならないだろうと予言した。しかしそれから十数年も経たないうちに、51トンの飛行艇が出来たのである。

しからば大型機を成功させる要素は何かというと、何といっても構造重量の軽減を計ることである。この意味において、構造重量の約半分を占める主翼の面積を減少しなければならない。換言すれば、翼面荷重を大きくしなければならない。今日の25トン以上の大型機が、何れも戦闘機以上の翼面荷重を持っているのは、斯くの如き理由によるのである。また、翼面荷重の増加により、大型機に起こりがちな剛性強度の低下は、ある程度防止できるのである。

大型機設計において構造重量軽減に劣らず重要な問題は、脚、車輪、制動機の問題である。

脚は飛行機が大型になればなるほど大きくなるが、脚と車輪は簡単に大型化できない。

これにはある限度がある。降着時の衝撃は、大型機になると莫大な大きさとなってきて、従来のように二つの主脚で受けるということが困難になる。そこで、多数の脚を使わなければならなくなる。

さらに車輪も同様で、大型機では多数の車輪を使用しなければならなくなる。車輪制動機の問題の困難な点は、大型機が降着時に如何に大きな運動のエネルギーを持っているかということを考え、さらにこれが、全てブレーキライニングの面の熱になるということを考えれば、自ずから明らかであろう。

なお最後に飛行機は大型化すれば搭載量と航続距離(これは燃料搭載量に関係する)が増加するということ、および防弾、成層圏飛行用装備がやりやすくなり、武装も強化されるという事は事実であるが、他面不経済になるということを忘れてはいけない。

即ち1リットルの燃料を消費して飛行し得る距離は、大型になればなるほど少なくなるのである。

これは空気力学的の方法、即ち飛行機の空気抵抗の減少によって揚抗比を増加するという手段、および発動機の燃料比消費量の減少、プロペラ効率の増大という手段で補わなければならない。これには翼断面の改良、有害抵抗の減少、主翼縦横比の増加等の手段がある。

しかし、これらにも種々な制約がある。かくていたずらに大型化を誇るということは意味が無いことであって、同じ航続距離を得るためには、型を小さくした方が有利な場合も生ずるのである。

戦場が世界の全域にわたる未曾有の規模を有する現下の戦争においては、搭載量と航続距離の大なる大型機が必要となったのであるが、我々は冷静なる判断をもって、これ等を検討して見る必要があるのである。

(筆者は航空研究所所員)

 

 

 

ボーイングB17E型「空の要塞」

低翼単葉、1枚垂直尾翼。発動機はライト・サイクロン二重星型1360馬力4基。銃座は12.7mm12挺、7.7mm1挺という多数の機関銃を装着している。乗員7~9名、翼幅31.63m、全長22.25m、全高4.72m、翼面積139.5㎡、全備重量27220㎏。

最大速度は480㎞/h(高度6100m)上昇限度12670m、巡航速度360㎞/h、航続距離4850㎞(最大5600㎞)、爆弾搭載量1600㎏~2500㎏。

このB17の特長とB15型乃至B19ダグラス超大型機の試作経験よりボーイングB29の設計試作を終り、既に大量生産に入って、わが本土空襲の準備をかためているといわれている。ボーイングB29型「超空の要塞」は全備重量50~60トン、ライト2000馬力4基を装備し、爆弾3トン搭載して、4800㎞を翔破する性能を有すると伝えられる。

 

コンソリデーテッドB24型四発重爆

ボーイングB17型「空の要塞」と共に敵米の代表的4発長距離爆撃機である。

肩翼単葉、4発、双舵式尾翼、三車輪式降着装置、発動機はワスプ二重星型14気筒空冷式1200馬力4基、武装は機首に12.7mm2挺、胴体上部に12.7mm2連装の動力旋回銃座があり、尾部にも同じく4連装銃座がある。

重要部分は15mm前後の装甲鈑で覆われ、燃料槽にも防漏装置を施してある。乗員9名、翼幅33.53m、全長19.23m、全高5.54m、翼面積96.89㎡、全備重量23587㎏。

最大速度509㎞/h、巡航速度370㎞/h、爆弾1814㎏を搭載して4827㎞の航続距離を有す。最大航続距離7500㎞。

 

ショート・スターリング四発重爆

中翼単葉、4発、1枚垂直尾翼、乗員7名、発動機ブリストルハーキュレス11気筒、二重星型1600馬力を4基、翼幅30.20m、全長26.6m、全高6.93m、翼面積135.5㎡、全備重量30845㎏、爆弾7258㎏(最大8165㎏)翼荷重229.48㎏/㎡、馬力荷重4.81㎏/馬力。

最大速度480㎞/h、航続距離、銃座は尾部のみ4連装で他は2連装。

 

アヴロ・マンチェスター双発重爆(アヴロ679型)

中翼単葉、双発、双舵式尾翼、乗員6~7名、発動機ロールスロイス・ヴァルチュア型液冷式24気筒X型配列、1845馬力(高度1524m)2基。

翼幅27.45m、全長20.98m、全高8.09m、翼面積106.17㎡、自重15876㎏、全備重量27216㎏、爆弾搭載量5080㎏、翼荷重227.24㎏/㎡、馬力荷重6.89㎏/馬力、最大速度480㎞/h、巡航速度360㎞/h、航続距離3600㎞。

 

 

アヴロ・ランカスター4発重爆

中翼単葉、4発、双舵式尾翼。乗員7名、発動機ロールスロイス・マリーンXX型1260馬力4基、(ブリストル・ハーキュレス二重星型摺動弁式空冷1400馬力またはカナダ製同機には米国製ライト・サイクロン二重星型1000馬力を装備)

武装、ブローニング7.7mm機関銃10挺、機首2連装、胴体上部2連装、同中央下部2連装、尾部4連装、爆弾室は胴体下部にあり、全長10mに及び1814㎏3個または907㎏6個。翼幅31.09m、全長21.18m、全高6.09m、翼面積120.45㎡、馬力荷重7.17㎏/馬力、最大速度480㎞/h、巡航速度360㎞/h、航続距離4800㎞。

ブリストル・ハーキュレス1600馬力装備の場合は馬力荷重4.26㎏/馬力となる。ランカスターは英空軍が1942年4月18日第1回欧州大陸爆撃に使用し、現在まで対独夜間爆撃を敢行して来た。

 

ドイツの大型機

ドイツの大型機は、米英より大分遅れていると云われるが、これは大型爆撃機を生産することが、米英より立ち遅れただけのことで、制作技術が米英に劣っているという訳ではない。これは、本大戦前ドイツが持っていた4発以上の大型機を数えてみても明らかである。即ち、フォッケウルフ・コンドル旅客機、ハインケルHe116型郵便機、ユンカースJu90型旅客機、ブローム・ウント・フォスHa142型機等の陸上機群を始め、ドルニエDo26型飛行艇、ブローム・ウント・フォスHa139及びHa139B型機等の浮舟水上機があり、この外にブローム・ウント・フォスBV222六発飛行艇を建造中であった。

ドイツ航空界の歴史を見ても、前大戦のジーメンス会社の大型機、ドルニエの大型飛行艇、後にはユンカースの大型機、ドルニエDoX等がある。しかしドイツ空軍の方針は大戦勃発前から体英仏爆撃に重点を置き、さらに性能向上の可能性と生産の便宜を考えて、中型爆撃機を採って進んだのである。

しかし大型爆撃機の必要が起るや、直ちに従来の非軍用大型機を改造し、さらに超大型機用材料製造のため押出機、鍛造機の設備も行って対米爆撃用機の試作を行い、現在ではその生産力も順調に進行して、敵を圧倒せんとしている。

 

フォッケウルフFw200K型機

本機はコンドル旅客機の軍用改装型で、クーリアーと呼ばれる。用途は長距離海上哨戒、船団攻撃、機雷敷設、潜水艦との共同等多種である。旅客機として筆者がフォッケウルフ社から得た資料によると、要目は乗員4名、旅客4名、翼巾33.0m、全長23.85m、全高6.1m、主翼面積118.0㎡、自重10925㎏、全備重量は正規で15500㎏、満載で17000㎏、発動機はBMW132DC型870馬力星型発動機4台、性能は最大速度は高度2900mで430㎞/h、航続距離2000㎞である。

軍用機となってからの要目は、ドイツからは発表されていないが、英米の情報では次の如くである。

本機にはK-1型とK-2型があり、前者はプラモ・ファフニヤ323M型1000馬力4台を装備し、後者はBMW801型1600馬力4台となっている。即ちK-2型に於ては発動機出力が強化され、正規高度も2440mから5500mに上昇しており、最大速度は402㎞/hから450㎞/hに上昇し、巡航速度は海面上で289㎞/hであったものが、6000mで361㎞/hになってきている。航続距離は3900㎞が3700㎞に落ちていたが、これは発動機出力の増加の結果であろう。

重量はK-1型で21500㎏となり旅客機としては著しく増加しているが、防弾装置、爆弾等による必然の結果であろう。寸法はコンドル旅客機と大して変化がない。英米の発表では全長、全高がコンドルに比して大きくなっているが、全長の増加は尾部銃座の取付の為であろう。

K-2型の武装は、胴体下方にある長大なる張出部前方に20mm級機関砲1門、主翼後方胴体上部に4挺の機関銃を有する電気動力銃座があり、更に張出部の後方に機関銃が1挺あって、尾部にも銃座を取付けられる装備があると云われる。

爆弾搭載量は1500㎏程度で張出部の中央部が爆弾倉になっており、この外に外側発動機ナセルの下方と主翼下に爆弾を搭載する。

本機は高性能旅客機として計画されたために、その設計は、空気抵抗の減少に重点を置き、単垂直尾翼の簡明な形状を採用している。

本機が独空軍最初の4発陸上機として、英国輸送船団の攻撃に偉勲を樹てた事は周知の如くである。

 

ユンカースJu90s型爆撃輸送機

ユンカースJu90型4発旅客機を改造したもので、ドイツ空軍最初の長距離爆撃機として、敵のボーイング、コンソリデーテッド、ハリファックス、スターリング、ランカスター等に対抗するため最近出来たものである。

本機は英国側でもランカスターに匹敵すると云って居るから、ランカスターより優れていると思ってよい。この爆撃機は、独空軍ではJu290と呼んでいると云われる。

本機の詳細は不明であるが、Ju90型機より寸法が大きく、主翼の形も最近のユンカース独特の前縁に後退角をつけている平面形をやめて、中央翼が矩形で、外翼が前縁後縁共にほぼ同じ傾斜を持った形に改められている。

また双垂直尾翼もJu90の三角形のものと異なり卵型となり、水平尾翼には僅かの上反角をつけている。

また胴体は先にユンカースが作ったJu89型4発爆撃機(ダイムラーベンツDB600型)と同寸法であると云われる。胴体後部の下面には大型の扉があって、貨物搭載のために斜板艙孔をなし、機械的に開閉する。なお扉が開くと、扉の下端が貨物の運搬に便利なように尾部を上げる。

寸法は翼幅41.9m、全長27.96m、全高6.86m、発動機はBMW801型1600馬力4台、重量は25000㎏、最大速度は高度約4000mで419㎞/h、巡航航続距離2000㎞と言われるが、これは英国の発表で必ずしも真相ではあるまい。

武装は操縦席後上方に銃座があり、機首下面左舷に銃座が流線形に突出し、更に胴体後方下面と機首に銃座がある。

口径15mm乃至20mmの機関銃或は機関砲を装備すると云われている。

本機は既にチュニジア及び独ソ戦線に活躍し、また対英夜間爆撃にも使用されている。

 

 

ハインケルHe177型長距離爆撃機

ドイツの対英報復爆撃の最も有力な手段として期待された本機は、最近主翼剛性の問題も解決されて大量生産に移り、すでにロンドン爆撃に参加している。本機は乗員7人乃至8人、翼巾31.6m、全長20.5m、全高5.54m、自重15900㎏、全備重量27700㎏である。発動機は最近のものはユンカースの1000馬力水冷発動機4台と云われるが、敵側の前発表ではダイムラーベンツDB603型1450馬力4台、或はBMW801型1600馬力4台と云われた。

しかしダイムラーベンツDB603型2台宛を左右にならべて、二重反転プロペラを駆動すると云うハインケルが数年来研究した方式を採用している事が最も可能性があり、英国で発表された写真もこの方式と思われるものである。この方式で4発機の空気力学的特性は画期的に改良されたのである。

本機の航続距離が7700㎞乃至11300㎞と云われるのを見ても、この点は頷ける。かくて、英米流の4発動機を一つ宛のナセルに収める方法に比して、大きな進歩と云ってよい。

しかし本機に関する情報には、普通の4発で4翼プロペラを装備するものもあると云われるが、その正否は確かめられていない。本機の性能は最大速度450㎞/hと言われる。

(解説・山本峰雄)