彼女は直島を離れた。

 

ここ直島は今の彼女が暮らす場所とは違っていたみたいだ。

 

高松までのフェリーでの1時間という時間を彼女はどう過ごすのだろうか?

天気が良いからデッキへ出て、小さくなっていく直島を見ているのか?

それとも客席で本でも読むのか?

たまたま隣り合わせた誰かと会話するのか?

もしかしたら、車の運転席に乗ったまま過ごすのか?

 

そんなことを思いながら僕は1杯の珈琲を淹れた。彼女の門出に。

そしてその代わりに僕は彼女から1冊の本を預かった。

 

ゆっくりと別れを惜しむ時間を用意してくれなかったのは、

彼女の優しさのような気がしている。

 

彼女が暮らす場所は、

直島ではなかったのかもしれないけれど、彼女がアカイトコーヒーのあの席に座って会話している姿はこれからもずっと続いていくように僕にはそう思えてならない。

 

こんな仕事をしていると、

多くの人たちと出会えるのだけれど、それと同じようにたくさんの別れもある。

 

わかってはいるけどやっぱり嫌だな。別れなんて。

 

だってさびしいじゃん。

 

だから僕は今日も別れ際には「またね。」って言ったんだ。

「さよなら」ではなくて。