かの男すみっこに三角座りしているかの男はわたしの知った男ではない。にもかかわらず、わたしを知っている顔で見つめてくる。わたしはかの男と目が合うのが嫌だったので、向こうをあえて見なかった。たしかに、かの男を知っていないでもないような気がしてきて、かの男を頭の中に引き入れて、かの男に名前を尋ねれば、広崎という名字だといい、わたしは知らないなあと首をかしげたら、いや、君は数年前に祇園で会ったよ、というので、わたしはそういえばたしかに会ったかもと、その広崎という男のほうを見れば、そこにはもう広崎はいなかった