日本はとっくに静脈経済に入ってゐる。

日本の太平洋戦争については、

「日本は貧乏だから戦争を始めたのであり、結果、貧乏だから戦争に負けた」

つまり、精神や発想に於いて貧乏だったわけだからと説明する人がゐたが、

日本はいま第二の敗戦を迎えつつあるのではないか。

巨大な社会保障不況である。

否応でも成長したいときの動脈経済から静脈経済のただ中に、

万太郎の俳句ではないがまさしく「命の果ての薄明かり」である。

生産があるわけでなく、従って売り上げの好循環が生じるわけでもない。

 

老人介護ではただ、喰って、ヒッて、眠る、が現実であり、

昔なら三世代で助け合う介護も、いまでは施設で、

しかもよその外国の人材のお世話にまで頼る始末になってゐる。

便通のなゐウンチを指で掻き出す。

陰茎を剥いて恥垢をとる、あるいは膣洗浄をする。

ミトンを手袋される、拘束衣を着衣される、ときに介護のさ中に殴られる、

眼鏡が吹き飛ぶ…これらはみんな身近にあった話だ。

ぼくの姉は二十数年も介護福祉士をしてゐるが、

週に一度は夜勤もこなしつつ、ごく最近まで手取りで16万円と云ふ収入だった。

多くの人たちが様々な暮らしを抱えながら

安い給料で社会の底辺で労働を余儀なくされている、と云ふ景色だ。

 

社会の生産性については「ボーモル効果」と云ふ経済用語がある。

動脈経済では集団就職など大変な人口が生産性の低い農村地域から

生産性の高い都市や、ベルトライン地域に移動した。

そして日本では「男女雇用均等法」が1986年に施行された。

貧乏だから、女性、主婦たちも職場へと駆り出されることになった。

ありていに云へばとーちゃん一人の稼ぎでは間に合わなくなってきたのだ。

共働き人口が専業主婦の人口を追い抜くのは1990年代の末頃である。

安倍首相は完全失業率は下がってゐる、

国民の所得も上がってゐる、と豪語するが、

問題は労働の質が下がっていることであり、

働きに出てゐる人口自体が増加していることで、

いかにも国民の賃金の総量が増えてゐると云ふ見掛け倒しに過ぎない。

覚悟のなゐアマチュアのやうな民主党は、

「悪夢のような民主党政権時代」と安倍首相にこき下ろされたが、

平然と数値を偽装する自民党安倍政権も「悪夢」には違いない。

 

日本はバブルが崩壊して、失われた長い30年と云う閉塞したトンネルに入ってゆく。

1997山一証券の破綻など金融危機は一気に派遣業法改変へと結びつき、

バッファーとしての非正規の人口が爆発的に増えてゆく。

就職氷河期はバブルの崩壊直後から始まっていたが、

1998ようやく金融国会に漕ぎつけるころには、根雪程度かなと思っていたものが、

完ぺきに氷河に変貌していた。

 

「ボーモル効果」とはものすごい大量の人口が生産性の低い経済的部位に移動すると、

そのこと自体で国全体の潜在成長力がそがれてゆく、と云ふ説である。

需要と供給部門が絡み合うやうにともに増大してゆくのが経済成長である。

総需要(所得・資産・機会)はこのやうに示され、

しかし低所得層に比べて消費性向の少ない富裕層だけでは需要は非常に心もとなく、

景気全般を引っ張るほどにはならない。

一方、世界での壮大な需要創造は中国が物語のやうに

海と、陸との“シルクロード”構想でやってくれている。

価値は価格に収れんする。

名目GDPを上げるためには物価を上げて×生産量を上げればいいわけだ。

名目GDPが増えれば社会にマネーがあふれてくる ?

ところでウェブ・ブラウザなど社会共有資産などは価格のデフレ化を促す。

介護、医療などは国による“配給制度”にことならず、

マーケットにおける価格付けを反映しない。

介護における「生産量」とはなんだろう。

一人最大で3人のお世話、そしてそのお世話はなかなかコンピュータ化出来ないものだ。

製造業では生産量=雇用に結びつく。

e-コマースなどでは労働はますます顔の見えないものになってゆき、

商業における“中抜き”はこれもデフレを加速させる。

お金の量×お金の使われる回数 = が恰も名目GDPてでもあるかのやうだが、

ベースマネーは日銀の当座預金に眠ったままで、

大量の虚数はもはや実体経済を反映していない。

■コンビニなどの冷凍食品などは社会の高齢化とおひとり様も表してゐる。

■スマホなどの課金システムは一見広く薄く、まるで税のように庶民に浸透してゐる。

 

1998「改正外為法」日本でのFXが解禁。

1999,11,12「グラム・リーチ・ブライリー法」が制定された。

“銀・証ワンストップ”同じ窓販で───

商業銀行業務や投資銀行業務、保険業務の兼業を禁止するために

1933年に制定されたグラス・スティーガル法の一部を無効にするための法律で、

第106連邦議会にて成立した。

印刷されたマネーは実体経済に向かわず、

成長力が低体温化し、設備投資機会を衰亡させつつあった先進国は、

マネー自体を商品とする、マネー資本主義へとなだれ込んでいった。

マネーの行き先は富裕層の資産へ───

・株式であり

・不動産であり

・為替

・デリバティブ、などである。

“Mrs ワタナベ”が登場して来る。

2008,9/15ついにリーマン・ショックが起き上がった。

 

倉石智證