日本には二つの大きな「神」の流れがあった。

ひとつはアマテラス系(銅鏡)で、稲作や鉄器をもたらした。

もうひとつは出雲系(銅鐸)で、北越の方まで銅鐸文化は浸透してゐる。

出雲系は「国譲り」と云ふ形で、アマテラス系に吸収される。

銅鐸文化はことごとく埋められることとなった。

 

日本国は遡ると「神の国」に至ると云ふのだ───

 

ヤマトタケルは「倭は 国のまほろば たたなづく 青垣 山こもれる 倭しうるわし」 と詠んで息を引き取った。国偲びの哀切なる大和を懐かしみ称える歌である。東征神話の最終楽章、能褒野のぼの(三重県亀山市辺り)ではヤマトタケルが白鳥になって故郷へと飛んで行くお話になる。天皇皇統の歴史は神話に満ち満ちているが、その神話とはまた兄弟、血累相争う歴史でもあった。ヤマトタケルは父・景行天皇に疎まれ、最初は熊襲征討に、それが済んだからと休む間もなく今度は東征へと命じられる。心細くも立ち寄る神籬ひもろぎの地、伊勢神宮では、垂仁天皇の娘・斎宮の倭姫命(叔母)から草薙の劍を授かり、まつろはぬ東国へと向かった。「吾妻はや・・・」と彼の行く先々には悲嘆が立ち込めてゐる。結局ヤマトタケルは天皇を引き継ぐことはならず、異母弟であろうか成務が天皇になり、成務はヤマトタケルの子供を皇太子に取り次ぐ。仲哀天皇となり妃の神功皇后は三韓征伐に高句麗まで兵を進める。崇神、垂仁、景行天皇あたりからようやく天皇史には少しずつエピソードが加わるようになった。

 

倭姫命=大和の国を出でて天照大神の御杖代として近江、尾張など諸国を経て、天照大神を遷幸して神籬ひもろぎを立てて、神託により伊勢神宮を創祇した。天照大神の御神体八咫鏡を奉斎する。伊勢神宮の初代斎宮となる。ひもろぎは神の依り代。

■“欠史八代”

古事記・日本書紀に於いて系譜(帝紀)は存在するが事績(旧辞)は記されてなゐ。

 

およそ崇神の前には「欠史八代」という長い時代があって、だがこれら天皇にはほぼ旧辞が伴わない。綏靖すいぜい天皇の父・神武天皇が我等が皇統の創業となり"神武創業"はBC660と云ふことになってゐる。神武をさらに遡ること天孫降臨は、アマテラスの孫、瓊瓊杵尊ににぎのみこと三種の神器を携えて高天原から高千穂に降り立ち、土地の娘コノハナサクヤヒメと婚姻することとなり、我が国の千五百ちいほ瑞穂の国はここより始まることになるかと思われる。

神話はおどろおどろしいお話に満ちてゐる。コノハナサクヤヒメはその妊娠を瓊瓊杵尊に疑われ、比売ひめは疑いを晴らさうと火中の産屋で子供を出産した。三人の子供の内二人は例の海彦、山彦である。結局はここでも皇位争いがあったと云うことだらう。山幸彦(火遠理命ホオリノミコト)は海神の神(ワタツミノカミ)の娘豊玉比売と結ばれる。コノハナサクヤヒメは大山津見神(オオヤマツビノカミ)の娘であるから、アマテラス系はここで海と山の勢力の合体に成功したのだらうか。山彦の息子の子供、つまり山彦の孫が神武天皇になって瀬戸内を経て、八咫鏡やたのかがみを押し立てて、熊野から吉野へと攻め入って行ったと云ふことだ。

 

「男系男子」ではなく、「女系男子」───

それは生まれてくる子の母親しか知らないことだ。

この後「女帝の実子は皇太子になることが出来ない」と云ふ暗黙のルールに結びついて行く。

瓊瓊杵尊の疑心は、

「あなたはたった一夜で子どもができたと言いますが、そんなはずはない。

その子はきっとほかの国つ神(くにつかみ)の子だろう」

コノハナサクヤヒメの心は痛く傷付いた。

(webより)

■女系天皇=母のみが皇統(天皇の血統)に属する天皇を指す呼称である(例=元正天皇)。

 

一方、アマテラスの弟の素戔鳴命すさのおのみことは結構な乱暴者で、その悪戯が過ぎてアマテラスが岩屋に隠れ,天地が暗黒になる事件を引き起こすに及んで、ついに高天原から地上の根の国へと抛り出された。しかし素盞鳴にも成長物語があり、赭い腹を見せのたうつヤマタノオロチを退治する話はつとに有名である。クシイナダヒメを救い、そしてヤマタノオロチの尻尾から出て来た天叢雲剣あめのむらくものつるぎとは「草薙の劍」のことで宝剣はいずれヤマトタケルの東征に帯剣されると云ふことか。山陰島根は砂鉄が豊富で山を切り落とし流れ落ちる渓流はさながら赭い腹を見せのたうつ八岐大蛇に見えた。この地方のたたら技術は製鉄へと発展し、この鉄の文明は新羅系から伝わったものと考えるが如何なものだらうか。とまれ、出雲には成長途上のオオナムチ(後の大国主命)が異母兄弟にさんざんに虐められてゐた。「因幡の白兎」とか「赭い大イノシシ」(火の大石)の話など、これもつまり兄弟同士による妻を奪い合う話と世襲争いではないか。大国主はヤガミヒメを得たがさらに兄弟に狙われて根の国に逃げ込んだ。ここで素盞鳴の娘スセリビメと懇ろになるのである。