たどり着くわが家の門に残暑かな
皮衣脱ぎ捨ててなほくちなはの
卓袱台に蚊帳置くことのありにけり
豆腐屋のあつしあつしと角の声
残暑見舞いして板の間に昼寝かな
秋暑し日影を出でで三歩かな
熱暑聞く通颱風の迂回せり
ユリの花俯く先の残暑かな
残暑瓦に置いて一村の干上がりゆき
足元に暑さを置いて天花粉
積乱雲まだまだ生きて生身魂
=生きてゐる年長者

音なひて古寺に萩静まりぬ
風熄むで萩にやすめる蝶々かな
上下に蝶戯れて萩の花
萩の花露を零して苔の路
薄の穂にぎにぎをして風に揺れ
道行けば萩と葛とがケンカして
芒原迷子となりて山の音の
一村のとっばずれなり薄が原
じいさんがばあさんを呼ぶ萩薄
水盤に影を映して萩の花
ユリノキの木陰ベンチや萩の花
(上野国立美術博物館)
萩聞いて風の想ひを知りぬべし
白萩と紫萩が並びをり
をもしろき螻蛄ケラ聞く空にこれッくらい


倉石智證