10,10/1(金)晴れ
秋天や妻浅草にお参りに
妻は脳梗塞で不随意になられた母の兄、
浅利のおじさんの回復を祈って浅草寺にお札を貰いに行った。
浅草寺の仲見世通りは外国の、それも中国の観光客で一杯だった。
人形焼、雷おこし──
リハビリやうれしきことの緑さす
浅利のおじさんの部屋は甲州リハビリ病院310号室。
3階の部屋は6人部屋で広々とした窓からは欅の葉が緑緑して窓近くに広がっていた。
ウロガードをキャリヤーにぶら下げて、ベッドの縁に腰をおろしたまま、
ずっと動かないでうつむいたままの老人が居た。
老人の皮膚はすっかり漂白されてしまったかのやうに真っ白になっていた。
飯食ふてただに死を待つリハビリの部屋に戻ればしばし黙もだせり
手首というか手の平にスプーンを包帯のようなもので縛り付けて、
それでプレートから食べ物を掬うように口に運んでいる患者さんも居た。
患者さんの脇にはヘルパーさんが立っている。
何かあればすぐに動けるようなたたずまい。
サコケ刺す柿喰ふ秋のはじめなり
妻は「痛い」と突然叫んで二の腕をさすった。
陽射しは確かに急激に秋のひんやりした陽射しに変わったが
柿の葉はまだまだ青々している。
その葉裏のいたるところにあの葉の緑と同色のいかにも獰猛さうな毛虫がたかっている。
小さい頃、私もさんざん刺されたものだ。
サコケに刺された痕は一週間近く腫れあがった。
サコケ刺す忘れてたこと忌々し
ああ、これは田舎での少年少女の時代の腹立たしくも忌々しい思い出。
柿の木に近づき、ついうっかりすると、
刺されたそこの部分だけではなく全身がいがいがするやうな痛みにとらわれるのだった。
老荘も儒教も玉もなにせうに増される宝主権、領土に
この場合は「宝」は温家宝首相。
9/24日、ニューヨークで開かれたオバマ大統領と
10人のASEAN首脳が参加した米ASEAN首脳会議。
約1時間半の議論の最大の焦点は、南シナ海問題だった。
しかし、会議後に発表された共同声明からは、
米国が原案に記していた「南シナ海」の文字は消えていた。
■中国はその3日前、
「南シナ海についての声明には重大な懸念を表明する」(姜瑜外務省副報道局長)と威嚇。
23日には温家宝ウェンチャパオ首相が国連総会での演説で、
国家主権や領土保全をめぐっては
「屈服も妥協もしない」
と言い切った。
(朝日新聞10/1)
バーンスタインとブジコとラ・カンパネラ(リスト作曲、超絶技巧)
「遅くなっても待っておれ。それは必ず訪れる」
バーンスタインはさう云ってフジコを励ました。
猫飼うてラ・カンパネラ異星人フジコ・ヘミング泣けば泣かせて
人には人生がある、無駄なことなど何ひとつない。
厳しいお母様の名前は投網子とあこさん。
私はテレビのドキュメントを観ていて泣いた。
フランソワーズ名前がすでに花のやう話す言葉がみな褒めことば
わたしはドイツ軍による占領下の苦しさを少女時代に味わっています。
景気の変動なんて戦争と比べたら、ちっとも怖くありません。
大切なのは安心できる毎日の小さな幸せです。
家族や友達と笑って食事ができること。
日本ほど調和と安らぎがある国はほかにありません。
国民性もあるのでしょうが、
民族や宗教の対立のない日本は社会的ストレスがなく、
サービスと笑顔と優しさにあふれています。
もちろん日本にもくらいニュースはありますが・・・
(フランソワーズ・モレシャン10,10/1朝日新聞)
10,10/2(土)晴れ
草引き女めかうもり草に隠れをり
ばあさんは畑の隅で例によっていやでも生い茂ってくる雑草と格闘している。
ネコジャラシやかうもり草や、チカラシバとか。
ば様はかうもり草のなかに屈んで草草はば様をまったく隠しさうなくらいだ。
ば様は草を引くことを一生の生業にする。
雑草はば様の天敵なのである。
妥協は許されない。
スズムシの鳴けば訪ふキリギリス石の長きに秋は冷へ来て
葡萄の出荷も明日が最終日になる。
摘みとったはずの葡萄の樹にまだ名残の葡萄が残っている。
二番なり葡萄はたいていは生育が悪いまま育ち、そのまま枝に熟成するものもある。
葡萄畑のあちこちにキリギリスが鳴き、
長い石垣のどこいらでかスズムシが綺麗な声で呼応する。
リーン、リーンとそれは本当にあえかに心細げにも聞こえ、
わたしは思わず石垣に手を当て聞き入ったものだった。
石垣の石の冷へ。
千代大海髷切り秋はもらひ泣き
千代の富士、白鵬らが髪を切る。
千代大海はつい涙を。
秋は泣きどころを選ばない。
そしてこの翌日は朝青竜が髷を切った。
大勢の芸能人も駆けつけハサミを入れ、
こちらはなんだかお祭り騒ぎ。
挙句に、土俵にキスをした。
さいごまでやっかいな人だった。
ゑふもなき紅さつま芋色をつけ蚯蚓みみず泣き泣き掘り出されけり
なんでこんなに畑の土の下で綺麗な紅色の皮膚をつけるのだらうか。
お嫁に行くわけでもなく、
人に見せるわけでもなく、
蝶々も昆虫も地面の下までは飛んでこない。
しかし、それにもかかわらず、あはれ彼女さつま芋は地上に掘り出されると
驚くべき色彩でわれわれを魅了するのだ。
掘り出されたさつま芋の傍らには
濡れぬれした蚯蚓か苦しそうにしなしなした身体を七転八倒させていた。
里芋を土に転がすゐ寝られず
鎌で刈り切る里芋の茎は、すばらしく瑞々しく、
瞬時に切断面からはあふれるほどの水滴を滴らせる。
ズイキに干すの、とば様にきくと、
そんなことはしないとそのまま畑の隅の柿の木の下に放った。
三ッ歯(備中鍬)を茎近くちょっと離れたところに思い切り打ちたて、
テコに里芋の茎の親子の塊を畝から引き剥がすようにひっくり返す。
細いしなびたうどんのようなたくさんの根に囲まれた、
里芋のびっしり固まった根塊が現われる。
われ指を以て月を指おしふ、
汝をしてこれを知らしむ、
汝なんぞ指を看て月を視ざるやと
■これとは別に「三教指帰(さんごうしき、さんごうしいき)」がある。
空海が24歳の著作であり、出家宣言として書かれた
(序文から、延暦16年(797年)12月1日に成立していることがわかる)。
宗教的寓意小説に仮託した出家宣言の書。
仏教の教えが儒教・道教・仏教の三教の中で最善であることが示されている。
彼岸花が咲いている。
「あそこに最高に咲いていますよ」
と勉義兄さんは教えてくれた。
農協に行く堰野川の土手の上だった。
彼岸花アイダミツオの兄さんは
アイダミツオは小さい頃、兄さんに連れられて紙芝居を見に行った。
兄さんは紙芝居を見るおこずかいもなかったのでその日もただ見をした。
紙芝居のおっちゃんはその日は虫の居所が悪かった。
大勢の子どもたちの前で「このやろう」と、
お兄ちゃんの頭を何度かこかしつけた。
お兄ちゃんは顔を真っ赤にしてゆがめて、
でも泣かずに黙って肩を揺らして我慢して立っていた。
お兄ちゃんは田舎の土手道を歩いていく。
アイダミツオは黙って兄ちゃんの後をついていく。
彼岸花が真っ赤に咲いているところがあった。
するとお兄ちゃんは手にしていた棒きれで
「こんちくしょう、こんちくしょう・・・」
と云っては、歩く先々の彼岸花の首を全部叩き落して行った。
お兄ちゃんの背中は───、泣いていたのかもしれない。
お兄ちゃんは戦争にとられた。
出征して間もなく、白い箱が届けられた。
父も、母も、きっと弾に当たってあっけなく成仏したのだ、
と云ってお互いに慰め合った。
戦友がお参りにやって来た。
つい、両親は息子の最後はどんなものだったのかと、
聞いてしまった。
「ご子息さんは腹を撃たれまして、えらく苦しんで、亡くなられました」
アイダミツオは土手に咲く真っ赤な彼岸花と、
彼岸花の首を打ち落としていく兄さんと、
泣いているやうな兄さんの背中を一気に思い出した。
智笑