「いつでも自分の心は自由にしておかなければならない」(ダーウィン)。
同じ種でも、少しでも自然環境に適した特徴を持った個体が生存競争を勝ち抜いて子孫を残していく。
自然選択が自然淘汰を促し、種の中にある種の進化をもたらす。
『種の起源』は1859,11/24日、英国で出版された。
カンブリア紀は約5億年前。
その時期に大方の生物の祖先が一気に創られたという。
いわゆるカンブリアの爆発期だ。
しかし、低酸素の時代はまだまだ続いていた。
水と陸とを往来する生物のなかに「HIF-1ヒフ・ワン」遺伝子を獲得した生物が生まれた。
生物はHIF-1遺伝子を使って生きのびた。
血管もまだ未発達な低酸素の状況の胎児ではHIF-1遺伝子が活発に働く。
鶏の胎児でも細胞がさかんに移動して体を形成していく。
その時働いているのがHIF-1遺伝子である。
低炭素の環境のなかでさらに強い細胞が淘汰されていくことが繰り返される。
がん細胞には分子標的薬を使用する。
分子標的薬はがん細胞の受容体のセンサーの凹を塞ぐ。
ところが情報は次々と迂回して「RASがん遺伝子」を刺激する。
細胞内には宇宙のような「パスウェー」が張り巡らされ、
一つの回路が機能しなくなっても、
パルスは無数の別の回路を通じて、RASに届いてしまう。
RASが異常信号を送り続けるとがん細胞は旺盛な増殖を続けるようになる。
細胞周期のタイミングを制御しているメカニズムが
何らかの要因によって完全に破壊されてしまっている。
生物は細胞内で絶えず自分を選び取っているわけだ。
傷ができた。
炎症部分からはさかんに信号物質が分泌され、マクロファージはそれを求めて出動する。
炎症部分にはマクロファージがさかんに集まってくる。
ところで傷が治るとはその部分の不良細胞をなくす、つまり、移動を促すことであり、
また新しい細胞の成長を促すことでもある。
がん細胞の場合では、マクロファージはそれらをやってのけ、
さらにあろうことか正常細胞を壊してまでも道を作り、
道先案内人にもなってしまうのである。
正常な粘膜下層を打ち破る(浸潤)はがん細胞の止め処もない他への漂流になる。
マクロファージはむしろ正常細胞を裏切る行動をとった。
正常細胞にびっしりと取り付いたがん細胞が紫色のマーカーで示される。
この正常細胞はがん細胞に栄養を与えて増殖を促している。
分子標的薬は正常細胞を壊すことによってがん細胞の増殖を止めることができるはず。
ところがマクロファージが正常細胞の裏に廻り込んで、
そのため分子標的薬は正常細胞を破壊できない。
1951,10月に子宮頸部のがんによって米国人女性ヘンリエッタさん(31歳)は亡くなった。
だが、彼女の患部から採取され培養されたがん細胞は
50年以上経ったいまでも世界中の研究室で生き続けている。
(ヘンリエッタさんという個体としては死んでいるが細胞として生きていく)。
がん細胞とは無制限に増殖し続ける細胞のことだ。
しかもその性質は変わらない。
細胞の分裂はテロメアという染色体の端の部分で制御されている。
分裂を繰り返すにしたがってテロメアは短くなっていく。
つまり、がん細胞とはこのテロメアがリセットされ続ける細胞のことである。
次々と尻尾が生え、手や足が再生してくるイモリたち。
人がイモリのような状態にならないですむのはなぜか。
いったんはその部分が幹細胞に戻り次々と再生を始める。
がん遺伝子とは正確にはがんを発生させる遺伝子ではなく、細胞の増殖を制御する遺伝子で、
すべての生物が増殖し生長するためには絶対に必用な遺伝子である。
がん遺伝子は必要なタンパク質を作り、そのタンパク質が増殖と成長をコントロールする。
そのがん遺伝子がが長い期間ストレスにさらされたり、
化学物質や放射線などで損傷を受けると、
タンパク質は正常に働かなくなり、コントロールを失って無制限に増殖を始めるようになりがんになる。
正常なたんぱく質が皮膚のテロメラーゼという酵素の目覚めを抑制している。
すべての生物は成長する(細胞分裂)ためには
「がん遺伝子」と
「がん抑制遺伝子」が必要となる。
ゲノムの番人「P53」遺伝子はガンを抑制する遺伝子で、人では17番染色体上にある。
ゲノム(全遺伝情報)の守護神と呼ばれ、
人だけでなくマウスなど、種をこえて存在する重要な遺伝子である。
「P53」遺伝子は、傷ついた遺伝子を持つ細胞が自ら死ぬように働きかけて(アポトーシス)除去したり、
細胞の増殖を止め修復の時間を稼いだりする。
普通の細胞は数十回の分裂後は死ぬが、
幹細胞は無限にコピーを作り続け増殖する。
ガンのもとになる「ガン幹細胞」(もともとは正常な幹細胞)もiPS細胞(皮膚など)も
→プロセスは似ている[遺伝子に複数の変化が起きて]
→増殖能力を獲得する。
「普通の細胞が幹細胞の特徴である増殖能力などを
改めて獲得してガン幹細胞になる可能性もある」
(谷口秀樹・横浜市立大学教授)。
■細胞のガン化は、ガン遺伝子とガン抑制遺伝子が変化しておきる。
悪性腫瘍にはこのP53の高い頻度での異状が見られる。
「山中4因子」とも呼ばれる4遺伝子を入れると細胞のDNAが傷つく
→がん化するのを防ぐためP53が活発化する。
「山中4因子」のジレンマ。
山中教授も
「iPS細胞ができる際には、
細胞は普段とは違う思いもよらない刺激を受けていると考えられる」
と指摘する。
一時的にP53を抑えるとiPS細胞ができやすくなる
(山中伸弥09,9/20日経)。
生きるとはストレスだらけで、
細胞は刻々とあらゆるストレスに耐えているとも云えるのではないか。
iPS細胞とは何か。
皮膚の細胞がある日突然、幹細胞に目覚めてしまうということである。
あらゆる細胞に発展可能な前駆細胞にリセットされてしまう。
老いがストップされ、時間が全く受精卵のときと同じ状態にリセットされる。
シミだらけの皮膚が突然やはらかく見たこともないものになり、
そこから新しい接木のように植物が生え始める。
そういった意味で、植物とはいかにも融通無碍な存在で、
老いも若いも時間軸さへ時にないかのようで、
云ってみればその分子のふるまいはなんとも愉快そのものである。
iPS細胞を作り出すのは大変だ。
並大抵でない事柄が植物では挿し木や葉差しから再生するように“万能細胞”が簡単にできる。
しかし、通常は動物でも植物でも勝手に幹細胞に戻っては体が大変なので
(複雑な器官や構造が維持できなくなる)、
普通は分化(幹細胞からさまざまな特定の細胞に成長すること)が固定されている。
だが、イモリも植物も、必要に迫られると戻る仕組みがあるとき生まれた。
38億年という単細胞から多細胞生物へとの進化の過程で、
幹細胞ではないものを作るというイノベーションが起きたのだった。
遺伝子は逸脱し変異する。
芝居ではどんなにシナリオを読んでもその通りにはならない。
役は現場で、共演者や状況に反応することでしか生まれない。
反応する力が衰えてきたらそれは老化ということになる。
死は死んでみなければ分からない。
どこまでも他者のもので、アポトーシスはすぐ隣接する場所で繰り返される。
でも生は一度終わっても永遠の自然とつながっている。
死への想いは深くなる。
直感と意識化の論理がふと鬩ぎ合う。
逸脱がシナリオから零れだし、逸脱が感動を生み出す。
わたしたちはその自分の最終楽章でどんなシナリオを思い描いたらいいのか。
死は全く日常のすぐ傍にある。
どのようにこれとお付き合いしてどうやってこの世からお別れするかは
周囲を含めたすべて自分の事柄である。
鳥取の「野々花病院」には須永進さんという稀有なDr院長がおられて、
19部屋のホスピスの病室ばかりではなく、村中の終末医療患者のところに出向いて行かれる。
「どこで死にたいの」
「ここ、ここ、ここ」
鼻から酸素吸入している患者さんが笑顔で自信に満ちた返事をかへす。
ある患者は朦朧として最後のハッピー・バースデーを家族や皆で病室のベッで行い、
翌日永遠の旅に旅立った。
著名な日本の知の巨人といわれる立花隆さんは膀胱がんに侵されたのであるが、
かろうじて浸潤は免れた。
TVのドキュメントではその立花隆さんが出てきて最後にこう締めくくられた。
「意識が体によって教えられてゆく。
人には人それぞれの死があり、
しかし、人間はみんな死ぬ力を持って生まれて来ている。
人間は死ぬまでちゃんと生きられる。
わたしはQOLは選択しない」。
自然選択と進化においては、有利、不利益もない。
生き延びるかどうかは偶然に過ぎない。
ダーウィンにおいては
「力が強いものが生き残るのではなく、変化したものが生き延びる」とある。
道元禅師は「生あらばこれ生、死が来たらば死を選べ」と──。
死ぬときが来たら死ぬことに委ねなさいと仰った。
良寛さんも似たやうなことを仰っているなぁ。
死ぬ時が来たら死ぬことに一生懸命になりなさい。
「精進」することと「執着」することは違うらしい。
なんともはやむつかしいことである。