学校によっては「生活指導部」と呼ばれることもあるが、この部署は生徒たちの日常生活に密接に関係している。なんなら「自分が若い頃によく世話になった」という経験もあるだろうし、それらがベースとなるため、学園ドラマでも頻繁に扱われたりするのだろう。おそらく世間でも一般的に知られている分掌なのではないかと思う。

 生徒たちが悪いことをしたら取り締まる。指導する。というイメージがあるが、この部署の仕事はそんなことではない。

 あまり世間に知られていないであろう生徒指導部の仕事内容を紹介しようという目的であるため、生徒指導部のイメージや散見される問題点ではなく、「こんなこともしているのだ」ということをできるだけ書いてみようと思う。

 生徒指導部の重要な役割に、就職先や大学への「推薦」がある。

 事の大小はあるが、生徒在籍期間の「指導履歴」を記録・管理しており、それが調査書に記載される。推薦入試を利用する生徒にとってはここが重要となる。たとえば試験中の不正行為をしてしまった生徒には「校長訓戒」や「停学○日」などの文言が記載されるのである。大学側がその記載事項を重要に扱うことはないと思うし、高校側も「推薦はあくまでも成績を中心」として考えてはいるが、高校としてそのような生徒を校長名で大学に推薦するのはなかなか困難な話である。また、推薦制度と表現はしているが、「学校型推薦」ではなく「指定校推薦」の場合、高校側の基準にはそれが強く影響することもある。

 当然、学校としては全ての生徒に対して公平に推薦できるように、調査書に記載される前に口頭注意で済ませようと、毎日口酸っぱく「メイク禁止」「スマホ持ち込み禁止」「制服を着崩さない」など言っている。

 また、調査書に記載しなければならない事態になった場合、正確に記載しなければ公平性が欠けてくる。たとえば「定期考査での不正行為」と「小テストでの不正行為」では、行為として同じ「不正行為」であったとしても、指導内容が異なるため記載事項が変わる。誰かの消しゴムを盗ったことと、誰かの財布を盗ったこととでは、「窃盗行為」という部分は同じであるが、指導内容が異なるため記載事項が変わる。暴力行為を行ったとして、それが意図的なのか不可抗力なのか、自ら行ったのかやられたからやりかえしたのか。そうしたことを丁寧に記載するために長い会議をしている部署である。(なぜ長くなるのかというと案件が多いからである)

 そして、こうした処罰・処遇を判定するだけの部署でもない。時代に合わせた校則を作っていくための会議も行われる。

 たとえば、「多様性」に対応するため、性別を問わず「スラックス」「スカート」を選べるようにしたり、「制服をかわいく」というニーズに応えるために、デザインの変更を考えたりする。この場合、デザイナー・予算・業者などへの連絡や発注もこの部署が行うのである。

 私が勤めた多くの私立高校は、いわゆる「伝統校」と呼ばれるところであり、制服のデザインが変更されようかという時、多くのOB・OGたちから「自分たちが着て誇りに思っていた制服を変えるとは何事だ」といったクレームがさんざん届いていた。それを受け止めるのもこの部署である。

 受け止める。で思い出したが、この部署は毎朝のように届く「通勤時間帯、お前のとこの学生が邪魔だ」とか「電車内で高齢者に座席を譲っていない」などのクレームを受け止めるのもこの部署である。

 

生徒の出口のことを考える進路指導部と、生徒の日常生活のことを考える生徒指導部の二つが、学校運営で欠かすことのできない両輪であることは間違いない。そして、私は複数の私立高校で働いてきたが、この両輪が正しく動いている学校は、教職員も生徒もいきいきとしていた。