一番前に座れば絶景を独り占め!パノラマグリーン車
パノラマグリーン車「クロ380」が、倉敷・出雲市方の1号車に連結されている。
3番線には、当駅まで快速「サンライナー」だった117系が停車中(写真中央)。
4番線には、当駅止まりで倉敷方の留置線に引き上げていく湘南色の115系D27編成(写真左奥)。
昨日5日を以ってラストランを迎えた、381系のパノラマグリーン車「クロ380」は、1989年(平成元年)から1994年(平成6年)にかけて改造が施された車両で、阪和線/紀勢本線の速達特急「スーパーくろしお」と伯備線の速達特急「スーパーやくも」に用いられました。
そして昨日のラストランまで「くろしお」「スーパーくろしお」で活躍していた全てのクロ380が、やくも用として「後藤総合車両所」に所属車庫が変更されました。
一番前の運転席は座席より少し低いので、一番前の座席(1号車1番A~C席)に座れば、高梁川の下流~上流までの渓谷沿いや石灰石の採掘で知られる「井倉洞」、山陰地方の名峰「大山」、国内有数の湖「宍道湖」などの景色を楽しむことができるので、大迫力の大型窓は381系ならではの魅力です。
冬の宍道湖(2021年12月撮影)
「エル特急」という存在
イラストヘッドマークの左上に描かれた独特な「L」マーク。この文字こそ、特急「やくも」が「エル特急」であったことを証明するものです。
では「L」の文字は一体何を意味するのでしょうか。
「Limited(Express)」「Liner」「Lucky」「Lively」「Light」「Lovely」...
色々思い浮かびますが、調べたところこれらの単語の頭文字をとっていたそうです。
では本来の「特急」と「エル特急」は何が違うのでしょうか。
それはつまり「一般大衆向けか否か」です。
「エル特急」が初めて設定されたのは、1972年(昭和47年)10月のダイヤ改正でした。
それまでの「特急」は「特別急行」の名の通り、食堂車(ビュッフェ)やら、リクライニング座席やら、受話器付き電話スペースやらで、現在でいう「グランクラス」「プレミアムグリーン」「シングルデラックス」「スイート」など特別感のある高価なサービスだらけだったため、「富裕層の特権」と言っても過言ではないほど一般の利用客にはなかなか手が出せない高級な列車でした。
しかし当時の国鉄は、高度経済成長期における流動的な人々の移動手段に「どうにかして特急列車を活用したい」と考え、「数自慢(本数充実)・かっきり発車(分単位での発車時間の統一化)・自由席追加」の3要素をコンセプトとした一般の利用客向けの安価な特急列車の乗車サービスを設定しました。
それが「エル特急」の始まりでした。
また当時は山陽新幹線が開通した他、羽越本線、白新線、北陸本線など日本各地の主要な在来線区間が電化された年でもあったため、国鉄としても機関車牽引の客車列車より電車の活用を促進させたかったのでしょう。
残念ながら、「エル特急」の文字は2018年(平成30年)の3月ダイヤ改正でJTB/JR時刻表から全て消滅してしまいましたが、2024年の今でも381系のヘッドマークや方向幕にはしっかりとその存在感を残しています。
クモハ381の貫通扉に掲げられた、伝統の「特急シンボルマーク」。
1958年(昭和33年)にデビューした151系から半世紀以上続くこのマークも、185系を除けば貴重なものになるでしょう。
多様な編成形態で最長9両の増結も!
松江駅に貼られた、9号車の乗車位置ステッカー。
381系のもう一つの特徴、それは「多様な編成形態を組むことができる」点です。
かつては最短が3両でしたが、現在は4両を基本編成としています。
しかし長期休暇に利用客が多く見込まれる時期には、上記の基本編成に2両の中間車と1両の先頭車を増結して合計6両、7両、9両の編成を組むことができます。
ではなぜこのように多様な編成を組み合わせることができるのでしょうか。
その理由は、先頭車に取り付けられた貫通扉に中間車を連結させた連結形態。鉄道ファンの間ではこのような形態を「変態連結」と呼んでいるそうです。
特に4・6号車のクモハ381は先頭車と中間車の双方を兼ねるので、多様な編成を組むことにおいて非常に優れていると私は思います。
今でこそ「変態連結」は、JR四国の2700系や8600系などの気動車特急では当然のように見られる光景ですが、381系のような電車特急がこのような連結形態を目にするのは非常に珍しいと思います。
国鉄時代の面影を残す、岡山方の先頭車「クハ381」
松江駅に入線する、岡山行きの特急「やくも」22号。
381系の中でも、一見違和感を覚える車両が存在することをご存じでしょうか。
それは増結編成の中に含まれる先頭7・9号車の「クハ381」です。
ではどこに違和感を覚えるのか、それは「内装のデザイン」です。
ではそれぞれの内装のデザインを見てみましょう。
①3号車モハ380の車内 ②7号車クハ381-109の車内
いかがでしょうか。照明の大きさや荷物棚、カーテンの色、座席と通路の床面の高さ、クーラーのデザインなどに違いが見られます。
特に照明は、大きさが違うだけで車内全体の雰囲気もかなり違いますよね。
では、なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。
それは「車両のリニューアルとそのタイミング」にあります。
①の写真は、2006年~2010年にかけて車体カラーリングと内装デザインを共にリニューアルし、「ゆったりやくも」として再デビューしたデザインになります。
しかし②の写真は、「ゆったりやくも」としてのリニューアルが施される以前の状態になっています。
実は、②の内装デザインの車両は、増結用の先頭車「クハ381-107/108/109」の3両のみであり、彼らは共に2015年10月まで「日根野電車区(現:JR西日本吹田総合車両所 日根野支所)」に所属しており、山陰本線/福知山線の特急「きのさき」「はしだて」「こうのとり」として活躍していました。
しかし現在の289系が投入されたことを機に、彼らは同年10月末の引退後に所属車庫が「後藤総合車両所」に変更されました。
ただ変更されたタイミングが、編成のリニューアル後だったため、彼らは外装のカラーリングのみリニューアルされたという経緯です。
まとめ:鉄道車両の進化は"温故知新"の繰り返し?
ここまで色々見てきましたが、結局381系は令和の今に何を残し、何を伝えているのでしょうか。
結論から言うと、過去の車両は「未来の車両へ繋げるための技術」を残し、その技術を参考に新型車両が開発される、
つまり「鉄道車両の進化は『温故知新の繰り返し』である」ことを伝えているのではないかと私は思います。
例えば、ハイブリッド車両として名高い「HC85系」のハイブリッドエンジンは、それ以前にデビューしている高山本線や太多線の普通列車「キハ25」に搭載されているエンジンの技術が応用されています。
名古屋駅に停車中のHC85系 特急「ひだ」
そして2両/4両の固定編成を組み合わせた最長10両編成までの多様な組み合わせは、間違いなく前身たるキハ85系の応用ではないかと思います。
このように考えると、古い車両を単に「過去の存在」として葬るのはどこかもったいないような気がします。
ですから、私たちは今も活躍する古い車両に対して「なぜこの車両が作られたのか」「この車両は現代の技術にどのような影響を及ぼしたのか」などと疑問視すると、自然と古い車両に価値が生まれ、例えその列車が古くても、その技術は決して失われることはないのだろうと思います。
今回は2段階構成の長いブログになりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。