『ツバキ文具店』(著)小川糸  2016年4月  幻冬舎 | 生涯学生気分

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後期高齢者ですが「生涯学生気分」の境地で若々しく、知的な記事を発信して行きたいと思っています。

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内容紹介

言いたかった ありがとう。言えなかった ごめんなさい。

伝えられなかった大切な人ヘの想い。あなたに代わって、お届けします。

家族、親友、恋人⋯⋯。

大切に想っているからこそ、伝わらない、伝えられなかった想いがある。

鎌倉の山のふもとにある、小さな古い文房具屋さん「ツバキ文具店」。

店先では、主人の鳩子が、手紙の代書を請け負います。

和食屋のお品書きから、祝儀袋の名前書き、離婚の報告、絶縁状、借金のお断りの手紙まで。

文字に関すること、なんでも承り〼。

 

主人公の雨宮鳩子は先代の祖母に幼いときから字の修練で厳しく鍛えられ、小学校の林間学校や修学旅行先まで筆ペンを持参し先生の目を盗み盗み練習した。高校生のときには遂にグレてガングロギャルになり海外の放浪の旅にも出かけ、祖母の最後を知らせる入院先にも駆けつけなかった。
母は祖母から離縁され鳩子の記憶にはない。父親についても一切出てこない。この辺が謎で、ひょっとしたら続編を作者は予定しているのかも知れません。

 

大きなトラウマを背負った20代の鳩子であるが、祖母亡き後の文房具店を引き受け併せて代書屋も引き継いだ。隣人の優雅なバーバラ婦人や偏屈だが面倒見の良い<男爵>、魚屋の奥さん、パンティというあだ名の小学校の先生などの「善き鎌倉人」との交遊の中で鳩子は成長してゆく。

 

 

代書屋と言えば、私などは落語の代書屋を想起するが、祖母を継いだ鳩子の代書屋はプロの代書屋で、手紙の文案作成に当たっては、依頼者と十分面談し、必要に応じて写真などの資料を求めたりする。そして筆記具、書体、用紙、インク、封筒、切手まで依頼者の人柄や依頼内容に応じてていねいに選ぶ。

 

 

絶縁状などは左右逆の鏡文字を使ったり、離婚報告の便箋にクレインのコットンペーパー、インクはフランスのエルバン社のもの、昔の恋人に出す手紙はガラスペンを使用し便箋はベルギー製のクリームレイドペーパー、インクはセピア色、借金を断る手紙には「満寿屋」の原稿用紙で太めのモンブランの万年筆などと、私など聞いたことのないブランドの文房具を使用する。

 

 

実際にはこんな代書屋さんは古都鎌倉でもいないと思いますが、そこは小説の世界。メールやスマホの味気ない今の世の中で、かってあった佳き「手紙文化」を彷彿させるものがあり楽しく読ませていただきました。
本の最初に、鳩子の「ツバキ文具店」や鳩子が隣人たちと交遊するグルメ店、四季折々出かけた名所旧跡などをイラストで表現した<鎌倉案内図>もあり、適宜眺めながら本書を読むのも一興です。

 

 

追伸
NHKテレビで放映されたドラマを見たのですが、鳩子役の多部未華子、祖母役の倍賞美津子、バーバラ婦人役の江波杏子、男爵役の奥田瑛二、白川太郎役の高橋克典、そしてはーたん役の子役の新津ちせなどみんな良かったな。特に江波、奥田、新津の演技は素晴らしかった。
そして特筆すべきは脚本ですね。原作の味わいを大事にしながらメリハリをつけ、時には膨らませ、白川太郎の認知症の母、猿のペットの権ノ助などのエピソードは原作以上の奥深い印象を私に残しました。