友人和子の息子2人は、とうとう成人を迎えた。

兄ちゃんは、身体が大きくて、気は優しい。

弟のよっちは、正義感が強い子で、理不尽なものに立ち向かい、小学生の頃はよく、和子は学校に呼び出されていた。

理由は、ほぼほぼ喧嘩。

喧嘩して怪我するなんて、今時珍しい。

しかし、自分はともかく相手が血祭りにあがるようでは、当然呼び出される。

よっちの考え方は、間違いじゃないだけに、和子も息子を頭ごなしに叱れない。

納得いかない息子を連れて、相手の家に菓子折り持って謝った数は数知れず…。

私はその話を和子から、何度も聞いていた。

「一度スイッチが入ると、怒りが止められないんだよね」

確かに。よっちは普段は明るいけど、すぐエキサイトする。

違うものは違う!とハッキリ言える子で、そういう所は親である和子と非常に似ている。

好きなものは好き。

一度好きになった物もとことん固執する。

その一つに、私が入っていた。

ある日和子が私に、

「よっちが将来結婚したいって言ってたよ」

え!自分の母である和子より年上の私が!?

学校の帰り道、よっちが1人で職場に現れて私を見ている。

「よっち、おかえりー」

声をかけると照れて隠れている。

ほほう。私を好きだと言うのは本当のようだな。

しかしその後

「俺、髪切ったのに、わかんねーのかよ!」

と急にキレてきた。

後に聞くと、私のために髪をさっぱりさせてきたらしい。だけど、いつも坊主頭なのだから、そんなの分かるかぃ!!

相手に伝わらない恋心…。

その気持ちをぶつけてきたようだ。

そして、それから10年ほど経った今。

あんなに私の事、好きだと言っていたのに。

その話はもう無かったことになっていたのである。