どんなに憧れても、俺は俺が理想とする男になることは出来ない。

 

「せめてこうなりたい」 なんてレベルではなく、俺は本気で「あの人のようになりたい」 と

理想だけがとんでもなく高い位置にいる。

 

身の程知らずだ。

しかも、身の程しらずだと、自分で解っていない。

適うはずのないことを考えるのは、夢ではなく妄想だ。

そこには何も意味はなく、新たに何か新しいものが生まれるということもない。

 

・・一日、その理想について考えていた。

他に考えることがないわけではないけれど、実際の自分のことを考えるのなんていやだったから、

現実から逃げて「あの人のようだったら」 と、沢山のシチュエーションを思い浮かべて心臓を高鳴らせていた。

想像の中だからだろうか、やはり俺が歩んできた人生よりも、なんぼか楽に歩けていけている気がした。

 

例えば、俺が超一流プロ野球選手になれるか といえば、それはNOだ。

世の中には、どんなに努力してもなし得ないことが沢山ある。俺の運動神経では、真剣に本気でそれだけを

目指したとしても、絶対に「なれない」。

俺の生まれつきの運動能力が、プロ野球選手という選択肢を排除する。

100メートルを21秒近くかかる人間が、ソフトボールのアンダースローボールすらまともに打てない人間が、

なれるわけはない。理屈ではなく、真実だ。

 

生まれ育った環境、スキル、体・・その全てが、もう致命的なまでにオカシイ。

 

・・そして、ふと思った。

俺は、理想に届けない。思い焦がれても、絶対に「俺の理想」 には届かない。

力もないくせに、努力もしてないくせに、俺の理想は高すぎる。

憧れていて、そうなりたいという思いが強すぎて、今の自分が本当に矮小で、嫌いになる。

 

本気で、本気で自分が消えればいいと思ってしまって、気付いたら無意識のうちに果物ナイフを持っていて・・

・・なにをするわけでもなかった。握り締めていただけ。

 

ただ、怖かった。自分が今、何をしようとしていたのか、全然思い出せなかったのが本当に怖かった。