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スポーツ男ののほほん魂

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 セスク・ファブレガスの勢いが止まらない。今季はプレミアリーグとチャンピオンズリーグで11得点を挙げており、現在チーム得点王である。アシスト数もチームトップ。首位を走るアーセナルでまさに中心的存在となっているのである。プレミアリーグ前半戦の主役を奪ったのは、この20歳のスペイン人だった。
 ボールを受ける。適切な位置に出す。そしてスペースへ飛び込む。
 セスクがピッチ上で90分間に行う動作は、ほぼこの3つに集約される。例えばクリスティアーノ・ロナウドのような洒落た個人技を持っているわけではない。スティーブン・ジェラードのような圧倒的なパワーもない。そのプレーは究極なまでにシンプル。最大の魅力はそのEffectiveness(有効性)にある。
 10月28日のリバプール戦の得点シーン。ボールを繋ぎ、左サイドでフレブがキープする間に、セスクはするすると前線へのスペースへと入っていった。そして裏のスペースに出されたボールをワンタッチでゴールに流し込み、それはアウェーでの貴重な得点となった。
 そこに見る者が驚愕するようなプレーはない。しかし有効性という意味でこれ以上に優れた選手はそういない。必要最小限のボールタッチで、チームにとって最大限の利益を生み出す。ある意味20歳らしからぬ、効果的で飾らぬプレーだ。多彩なパスで人を使うことができる上に、自らが人に使われることもできる。世界有数のFWが割拠するプレミアリーグで、MFが得点ランキング上位にいることのできる理由だろう。リバプールのジェラードもそんなセスクを高く評価している。
「既にプレミアで最高クラスのMFだ。このまま成長すれば、世界でもトップクラスのMFになることができる。あれは才能だ」
 セスクがまだバルセロナの下部組織にいた頃、彼はジェラードのプレーを何度も映像で眺めたという。少年の目に映ったのは、攻守を高いレベルでこなす、ダイナミックなMFだった。そして繰り広げられたのはパワフルでテンポの速い、男性的なフットボール。スペインとは全く違う世界が、画面に映し出されていた。
「当時からジェラードのプレーを見ては勉強していた。あの存在感と、得点力はイングランド独特のものだと思った。もちろん当時はバルサのトップチームでプレーするのが夢だったけど、プレミアシップも魅力的だった」
 やがてセスクはその舞台へと移ることになる。アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督に見出されイングランドへ渡った時、セスクはまだ16歳だった。
 それから4年。イングランドに馴染み、もはやプレミアを代表するMFとなったセスクだが、バルセロナのラテン的な香りは、未だにそのプレーの中に感じられる。例えば寸分違わぬそのトラップに。ごく自然に作られる完璧なボディーシェイプに。縦へ急ぐだけでなく、ピッチを横に広く使うゲームメイクもスペイン仕込みと言えるだろう。幼少期にバルセロナで培ったそれらの高い基礎技術に、英国的ダイナミズムが加わり、現在のセスクが形成されているのだ。カタルーニャで育ち、イングランドで完成した一人のフットボーラー。偶然ともいえるこの奇跡に、フットボールフットボールファンは感謝しなければならない。
 セスクは20歳にしてスペイン代表にも定着している。リーガでのプレー経験のない彼が、イングランドから“逆輸入”という形で代表入りした事実は、続々とプレミアに選手が流れていく現代サッカーを象徴しており興味深い。現在の代表の中盤を構成するのはセスク(20歳)、ダビド・シルバ(21歳)、アンドレス・イニエスタ(23歳)の若手3人衆。あのラウールが代表から外れる一因となったのは、セスクに代表される下の世代の押し上げだった。半年後に控えるEURO本大会へ向け、この新世代へかかる期待は高まっている。
 得点力の向上に代表される今季のセスクの成長は、アーセナルの絶対的エースであったティエリー・アンリの離脱とも大きく関わっている。アンリの離脱はセスクの選手としてのレベルを更に一段階上げるきっかけになったのである。セスクも認めるように、これまでのアーセナルはアンリを中心に全てが動いていた。
「ティティ(アンリ)の存在は、僕らにとって大きな傘のようなものだった。雨が降れば、彼が僕らを守ってくれる。そんな存在に包まれて僕らはプレーしていた」
 しかしその傘は突如空の彼方へと飛んでいった。かつてセスクが育ったカタルーニャの地へ、静かにアンリは去っていった。
「ティティが去った後、僕らは全てにおいて自分たちの責任でプレーしなければならなくなった。彼に頼っていたこれまでから、一歩前に踏み出さなければなかった」
 集団の中の強烈な存在は、やがてある種の依存を生み出す。アンリにボールを渡しておけば、彼が何とかしてくれる。絶対的だったアンリの存在は、若き選手たちの心のどこかにそんな依存を生んでいたのである。そんな頼れる存在が抜けたことで、セスクの心の中にもこれまでにはなかった小さな責任感が芽生えた。ペナルティーエリアに飛び込む回数は増え、ミドルシュートを狙うことも多くなった。アンリ離脱後に得点が急激に増えたのも単なる偶然ではない。
 “Life after Thierry Henry”。
 アンリなきその世界で、セスクは目覚めたのだ。
「今シーズンの目標はタイトルを取ること。アンリがいないという理由で、開幕前アーセナルは優勝候補じゃなかった。でも今僕らは首位にいる。プレミアリーグとチャンピオンズリーグ。僕らには大きな可能性がある」
 青年はあくまでイノセントに語った。そして始まったアーセナルの新世代。その中心に、成長し続ける若きMFセスク・ファブレガスがいる。