熱帯魚を買ってきて新たに水槽に入れる時にする作業のことを「水合わせ」と呼びます。

アクアリストの方なら誰もが経験する、酸素詰めにされたポリ袋のまま水槽に浮かべて、しばらく待ってから魚を放すという、あの作業のことです。そんなこといちいち聞かなくても分かっているという方もおられるとは思いますが、この「水合わせ」という作業、考えてみると実はなかなか奥の深いものなのです。

 「水合わせ」には、大きく分けて二つの目的があります。

最初にポリ袋のまま水槽に浮かべておくのは、水温の急変による魚のショックを和らげるためです。

この作業は約10~15分も浮かべておけば十分目的は達せられます。たまにお客様から、「1時間以上浮かべておいたら大丈夫だよね。」と尋ねられたりするのですが、この作業は水温を同じにすることが目的ですので「1時間以上浮かべておくことが別に悪いことではありませんが、15分も浮かべておけば十分ですよ。それよりももっと大切なことがあります。水温合わせが済んでもいきなり魚を水槽に放さないでくださいね。」とお答えする場面がよくあります。

 そうなのです。もう一つの目的である、水質を徐々に馴染ませるという作業が、実はとても重要な部分なのです。

水温だけを馴染ませていきなり魚を水槽の中に放すと、場合によっては急激な水質の変化に順応しきれず、大切な魚たちが大きなダメージを受けて、一週間以内に全滅ということが起こり得ます。このような現象を「水合わせの失敗」と言います。もっと厳密に言えば「PHショック」であったり、「硬度ショック」といういうことになるのですが、いずれにせよ後の祭りです。何故このような事体が起こるのかと言うと、魚たちは水質が徐々に変化する分にはそれなりに順応出来るのですが、急変には非常に弱いという面を持っているからです。

 水質を徐々に馴染ませる具体的な方法には、いくつかのパターンがあります。最も一般的で簡単な方法は、水槽に浮かべてあったポリ袋を開封し、水槽の水をポリ袋ですくうようにして少量ずつ入れては休みの動作を繰り返し、袋の中に水が一杯になった時点で魚だけをアミですくい出して移動させる方法です。この作業をする上で気になることが、2点あります。ポリ袋の中に水槽の水を入れ始めて、魚を水槽に放すまでに要する時間はどれ位が理想なのか。もう一つはポリ袋の水ごと一緒に魚を移動してはいけないのかという点です。

時間をたっぷりかけさえすれば、例えば2時間も3時間もかけて馴染ませてあげればそれで良いのかと言うと、決してそう言うわけではないと私は考えています。狭苦しい場所にいつまでも閉じ込められているよりも、早くゆったり泳げる新しい環境に移して欲しいと魚たちはきっと願っているに違いありません。おまけにエアーレーションをせずに長時間かけて「水合わせ」をしていると、下手をすれば酸欠で死なせてしまうことにもなりかねません。普通は5~10分もかければ十分です。

 また、もともと魚と一緒にポリ袋に入れられている熱帯魚店の水は、家に持ち帰るまでの時間によっては魚たちの排斥物によって汚れていることが考えられます。したがって、厳密に考えれば入れない方が良いということにはなるのですが、水槽が小さい場合など、水合わせしてたら水槽の水が半分位に減ってしまったなんてこともあり得るわけです。後から水道水を足していたら、結果的にはまた新たなストレスを魚たちに与えることになってしまいます。

それではどんな方法で「水合わせ」をするのが理想的なのか?次回は、水質の指標の一つであるPH値と総硬度の話を織り交ぜながら考えていきたいと思います。

少々マニアックな内容になりますので、ご興味がおありの方だけご期待ください。