久しぶりの山口県立美術館😊
今回の特別展は江戸絵画の「奇才」にスポットを当てた斬新なテーマの展覧会。
「奇才」の「奇」は思いもよらない、前例に捉われないという意味。
狩野派や円山応挙、尾形光琳ら主流絵師たちの前例に捉われない奇才から、伊藤若冲や各地方で傍流とされてきた絵師たちの斬新な奇才まで。
従来は流派別に語られていた江戸絵画ですが、実は多様で自由で個性溢れる世界だったことに気づかされます。
ここでは、数ある作品の中で個人的にもっとも印象深かった作品の一つを紹介します。
作者は、画狂とも称した江戸時代を代表する奇才中の奇才、葛飾北斎✨
その作品は嘉永2年(1849年)の正月、90歳となる北斎が新年の書き初めで書いたとされる絶筆、「富士越龍図」です。
葛飾北斎『富士越龍図』長野北斎館所蔵
雪に包まれた真っ白な富士山。
そこに黒い雲が取り巻き、筋を描くように天に伸びていく中には昇っていく龍の姿が描かれています。
この画題は出世を表現しているもので、生涯描いた作品が3万点以上とも言われる北斎の最晩年にして、意欲的な野心、衰えぬバイタリティがひしひしと伝わってくる作品です。
さらに、じっーっと作品を見れば見るほど、昇天していく龍が北斎自身を表現しているように感じられます。
龍の通り道となっている黒い雲はモヤモヤっとしていながら、そこにはしっかりと1本の筋が通っており、その中を通る龍はあえて小さくぼんやりと、ひたすらに謙虚に描かれています。
ちなみに龍が描かれている位置は、富士山と天の中間からやや手前くらいです。
道なき世界に奇才と情熱をもって
あくまで謙虚に切り拓いていった葛飾北斎。
90歳を超えてもなお道半ばと捉えるあたり、その意欲は全く衰えることを知りません。
果たして龍となった北斎が目指した天上はどんな世界だったのか。
そこから見渡す景色はどんな様子だったのか。
北斎はこの絵を描いた3ヶ月後に臨終を迎えたため、誰もそれを知る由もありません。
「富士越龍図」
気になる方はぜひ一度ご覧ください。