3月8日、フィンランドを訪問したドイツのピストリウス国防相(中央右)。ドイツは安全保障の見直しを迫られている(ロイター)

 

11月の米大統領選を前に、ドイツで独自の核武装論が浮上した。ウクライナ戦争でロシアが勢いづく中、米国で同盟軽視のトランプ政権復活の可能性が浮上し、「米国の『核の傘』に頼れなくなる」という不安が現実味を帯びたためだ。ドイツは北大西洋条約機構(NATO)の核共有の枠組みで、国内に米国の核爆弾を貯蔵している。NATO欧州で独自に核兵器を持つのは英仏2国だけだ。リントナー独財務相は2月、「トランプ前大統領再選」を視野に、英仏と核協力を結ぶ選択肢に触れた。

 

独紙フランクフルター・アルゲマイネに寄稿し、「英仏が戦略能力をわれわれの集団安全保障に用いる場合、どういう政治、経済条件を付けるだろう。われわれは、どこまで貢献できるか。欧州平和がかかっており、困難な問題を避けるべきではない」と主張。間接的表現ながらドイツ核武装の可能性に踏み込んだ。リントナー氏は、ショルツ政権の第3与党「自由民主党(FDP)」党首でもある。

ショルツ首相の与党、社会民主党(SPD)の重鎮カタリーナ・バーリー欧州議員も、欧州連合(EU)としての核武装を考慮すべきだとの立場を示した。トランプ政権が復活すれば「米国は頼れなくなる」と警鐘を鳴らした。

 

ショルツ氏は「現状では重要な話ではない」と核論議に距離を置く。だが、核抑止力への不安はウクライナ支援に表れている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は4月、ショルツ氏が「ドイツが核武装していない」ことを理由に長射程ミサイル供与を拒んだと明かした。ウクライナは英仏から長射程ミサイルの提供を受け、ロシアが併合したクリミア半島で露軍施設を攻撃している。核兵器を持たないドイツは英仏と異なり、ロシアの報復に強い懸念を抱いているということだ。

 

ドイツの核論議は4年前、1期目のトランプ政権時代にも浮上した。米欧同盟に亀裂が入り、フランスのマクロン大統領が「我が国の核兵器を欧州の集団安保に役立てる用意がある」と述べ、協議を呼び掛けたのがきっかけだった。当時のメルケル独政権は結局、応じなかった。背景には、米国のドイツ離れを招くという懸念があった。

「米国から1000発買うべき」

今回はウクライナ戦争で、欧州安保の自助努力は待ったなしの課題となった。トランプ氏が2月、同盟国が十分な防衛負担をしなければ「ロシアに『好きにやれ』とけしかける」と発言したことで、核論議に火が付いた。バイデン大統領が再選されても、米国は中国対策でアジア重視に傾き、「欧州離れ」は止まらないとの見方も強い。

ドイツの著名な政治学者、マキシミリアン・テルハレ氏は独紙ウェルトで、ドイツの核武装を主張し、英仏独3国で核抑止体制を作るべきだと訴えた。英仏の核弾頭は合わせて550個で「ロシアに対抗できない」と現状を評価。「米国から核弾頭を1000発買えばよい」とも述べた。

ドイツの東隣ポーランドでは、ドゥダ大統領が米国の核配備受け入れに意欲を示した。「NATO東翼の強化になる」と訴え、核共有国になりたいと名乗りをあげた。一方でマクロン氏は、再び欧州諸国に核兵器をめぐる協議を呼び掛けた。トランプ再選のシナリオを視野に、各国が動き出している。

NATOの核共有で、欧州で米国の核爆弾配備を受け入れているのは現在、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコの5カ国。1970年代、ドイツ(当時は西独)では核配備への抗議運動が広がり、東西冷戦後も核廃絶を求める声は強かった。核武装が中央政界で真剣に論じられるようになったことは、安全保障観が様変わりしたことを示している。(三井美奈)産経新聞

 

核の脅威に対抗するには核しかないのである。ドイツだけでなく、ポーランドでも核武装をすべきだという国民の声が日々増えている。日本でも、核武装を主張する意見もある。