兼原信克氏

岸田文雄政権が国家安保戦略を策定して1年が経(た)った。岸田首相は戦後安全保障政策の大転換を成し遂げた。防衛力をGDP1%枠に縛り付け「それで負けたら仕方がない」という、三木武夫政権以来の無責任な基盤的防衛力構想が完全に葬り去られた。

 

安保戦略に停滞許されず

巨大化した国力を背景に、アジアの現状を一方的に変更し、尖閣奪取をうかがい台湾の武力併合と共産化を狙う中国に対して、防衛費を倍増し日米同盟を活性化し、インド太平洋地域の友邦を募り、日米豪印(クアッド)や日米韓の連携を強化し、地域の平和と安定のためにリーダーシップを取ろうと呼びかけた。岸田政権の戦略は、内外から高い評価を受けた。

その肉付けが進んでいる。国家と国民の安全は、政府の一丁目一番地の仕事である。国家安保戦略の実現に停滞は許されない。厳しい安全保障環境を考えれば、一刻の猶予も許されない。

鳴り物入りで始まった反撃力の整備は着実に進んでいる。「専守防衛」と言えば聞こえはよいが、自国を焦土とし、国民の命を盾として戦う戦法は、愚かな戦法である。ウクライナをみれば、核戦争へのエスカレーションを危惧するバイデン米大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領にロシア本土への反撃を許さない。プーチン露大統領は、聖域化されたロシア領土を利用してウクライナを思う存分に蹂躙(じゅうりん)している。敵の策源地を叩(たた)かなければ、こちらが降伏するまで国民の殺戮(さつりく)と国土の破壊が繰り返されるのである。

反撃力とは、自衛権行使そのものに他ならない。政府は、国産の12式地対艦誘導弾能力向上型が登場するまでの次善策として、米国製トマホーク400発の導入を決定した。最新型の「ブロック5」は生産が追い付かないために、「ブロック4」を交ぜて購入することで取得開始時期を1年前倒しした。2025年度から部隊に配備が始まる。本格的な反撃力がようやく形を整えつつある。

能動的サイバー防御の課題

しかし、もう一つの目玉だった能動的サイバー防衛には全く進捗(しんちょく)がない。政府の意志が感じられない。有事の際のサイバー攻撃は言うに及ばず、平時からの情報窃取、ランサムウエアを用いた身代金要求、AIを駆使した認知戦(宣伝戦)と、サイバー空間を悪用する例は枚挙にいとまがない。20世紀末に人間が作り出したサイバー空間は地球的規模で広がり、3次元の物理空間を吞(の)み込んだ。

サイバー空間は、人類に大きな飛躍の可能性を与えると同時に、底知れない闇をも開いた。距離と時間がない闇空間を、外国の軍諜報部や情報機関、あるいは犯罪者がわが物顔で歩き回る。各国政府は、サイバー空間の安全を守るために厳しい監視体制を敷き始めた。日本もまた自衛隊、政府、重要インフラ、さらには国民を守るために首相官邸にサイバー局を置き、サイバー空間全体を監視するデータセンターを設置することが必須である。またホワイトハッカーを大勢雇用して大規模なサイバー軍を立ち上げ、敵のサイバー空間に逆に侵入できるようにせねばならない。それが能動的サイバー防衛である。

この議論をすると、必ず出てくるのが通信の自由を規定した憲法21条である。55年体制下では、憲法21条は、憲法9条と並ぶイデオロギー問題であった。東側に軸足を差し込んだ左派陣営が、東側スパイの摘発に繫(つな)がるスパイ防止法に反対し、特定秘密法に反対し、同時に、政府による通信の管理を極度に警戒したからである。しかし、冷戦が終わって既に30年である。個人の通信の自由を守りつつサイバー空間の安全を守ることは当然である。それが現実に世界中で実行されていることである。

岸田首相の英断を期待する

冷戦下のように左派の反発を恐れていては、国家の安寧は実現できない。保守本流の生みの親である吉田茂元首相は、左派陣営の猛反対を押し切ってサンフランシスコ講和条約を締結した。そしてたった一人で日米同盟に署名した。軽武装を目指したのは、敗戦で破壊され尽くした日本の復活のためであった。日本という国家の再生こそが吉田の本意であり、保守本流の原点であるはずである。

それがいつの間にか、社会党と国会対策で慣れあい、安全保障を米国に委ね、経済成長の果実をばらまくだけが保守であるかのような歪(ゆが)んだ意識が生まれた。何よりも政局の安定を優先するようになった。特に憲法が絡む安全保障問題ではその傾向が強かった。

安倍晋三元首相は、新しい時代を開くため、正面から憲法9条の解釈変更に挑んだ。集団的自衛権を巡る憲法解釈を大胆に変更し、幾度も選挙に打って出て国民の支持を勝ち得た。憲法21条問題で逃げ回っていては、とても保守本流の看板は掲げられまい。長期政権化した内閣の支持率は低迷しているが、政治と金を巡る混乱と派閥の解消で、むしろ岸田首相の党内権力は大きくなった。保守本流の嫡子である岸田氏の英断を期待したい。 (かねはら のぶかつ)産経新聞

 

岸田文雄総理は、宏池会という保守本流である。軽武装で経済重視路線である。吉田茂は、昭和27年サンフラン講和条約を締結をして、吉田茂は日米安保条約を締結をした。吉田は外交官でありリアリストであったからできた

安倍晋三総理は、祖父もできなかった米国との集団的自衛権を容認を決めたことは、日米同盟強化と日本の安全保障に大きな力になった。岸田文雄総理も防衛費GDP2%、反撃能力を決めたことは称賛されるべきである。でも、米国のポチ、中国の「しもべ」であることは容認できない。LGBT理解増進法は最悪だ。