サービス券付きはがきが来たので、久方ぶりに家族全員で都内のフグ料理チェーン店に繰り出した。注文はもちろん定番の養殖フグコースだが、「いつもより分量が少ない、実質値上げか」と刺し身をいじましくつついていたところに、4人連れの男性客が斜め向かいのテーブルに座った。中国からの旅行者で一人は日本語が堪能だ。店員が「養殖ものと天然もの、どちらにしますか」とメニューを渡すと、「うわー、安いね。天然虎フグ・コース、それに獺祭の一升瓶を一本」。

図らずも聞かされた当方は小声で、「天然物の値段は養殖物の2倍はするけど、味はほとんど同じだよ」「獺祭は中国でも大人気だね」と講釈するが、実は、天然虎フグなんて写真でしかお目にかかったことがないし、獺祭も高嶺の花だ。

「安い日本」―。海外客にとっては確かにそうだろう。だが、平均的日本人にとっては懐具合との見合いで逆だ、「高い」。過去、四半世紀にもわたるデフレのおかげで、物価も賃金も上がらなかった。最近は物価上昇が目立つが、賃金はそれに追いつかず、国民一般は実質ベースで貧しくなる状態に変わりはない。しかも消費税率10%はズシンと重い。

要はこれからだ。年初来の景気回復傾向が今後も続き、物価並みに賃金が上がるかどうか。

中国経済のほうは、不動産バブル崩壊が止まらず、景気は下降し続けている。本欄既報通り、高利回りの金融商品で潤っていた中国の中間層や富裕層は元利の受け取りが止まり、騒然としている。筆者の知人の上海市民もその一人で、電話の向こうで「心から血が出る」と、悲痛である。しかも外資の引き揚げラッシュが続く。習近平政権は金融の大幅な緩和や財政の大規模な出動もできない。人民元相場崩落を誘発しかねないからだ。天然虎フグ目当てに日本にやってくる中国人客は今後、大幅に減るだろう。

ここで、最近の円安動向に注目してみよう。対ドル相場でみると、昨年3月以降、円安基調が続く。経済メディアはそれをみて「悪い円安」だと騒ぐが、筆者は円相場に善悪はない、よほど急激でない限り、円安は日本経済にはプラスに働く、と反論してきた。

グラフは、産業界の景況を円相場と対比させている。円安の進行とともに、全産業の景況感は改善している。とりわけ、宿泊・飲食業の景況と円相場の連動ぶりが際立っている。日本を安いとみる訪日外国人によるインバウンド消費を大いに刺激していることがうかがわれる。冒頭のフグ料理店の客が典型だ。

日銀短観ではまた、円安とともに企業の設備投資意欲も製造業、非製造業を問わず、旺盛になっているのも心強い。だからといって政府が何もしなければ、円安は逆に私たちのフトコロを直撃してしまう。岸田文雄首相はようやく「減税」を口にし始めたが、つべこべ言わず消費税減税など即効性ある負担軽減策に踏み切るべきなのだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

 

円安は、日本経済をデフレから脱却させる最大のチャンスだ。日銀短観ではまた、円安とともに企業の設備投資意欲も製造業、非製造業を旺盛だ。だからといって政府が何もしなければ、円安は逆に私たちのフトコロを直撃してしまう。岸田総理は、ようやく「減税」を口にし始めたが、所得税減税、消費税減税、低所得者には現金給付を行うべきである。また、社会保険税の減免、再エネ賦課金の廃止もすべきである。成長の恩恵を国民へ還元すべきだ。‼️