3月7日、南シナ海のウィットサン礁に集結した中国漁船約220隻の一部。フィリピンの閣僚が中国の言い分に激怒している(フィリピン沿岸警備隊提供=ロイター)

 フィリピンの閣僚が中国への怒りを爆発させている。フィリピンが自国の排他的経済水域(EEZ)内と主張するスプラトリー(中国名・南沙)諸島の海域で中国漁船が停泊を続けているためだ。閣僚は実効支配が既成事実化される恐れがある漁船の長期停泊に危機感を募らせている。「米国嫌い」とされ親中国的な姿勢で知られるドゥテルテ大統領(76)だが、領土的野心を隠そうとしない中国に反発する閣僚との板挟みになり、苦境に立たされている。(シンガポール 森浩)

 

閣僚激怒「スカボロー礁の再来」を懸念

 「天候は良好でそこに留まる理由はない。出ていけ」。

 

 フィリピンのロレンザーナ国防相は3日、停泊を続ける中国船について、激しい言葉で批判した。

 フィリピン政府によると、スプラトリー諸島のウィットサン(中国名・牛軛)礁周辺で3月7日、約220隻の中国漁船が停泊しているのが確認された。3月末時点で44隻が現場に残っており、現在も一部が停泊を続けている。

 ロレンザーナ氏が激怒するのは、中国が「荒天を避けるために停泊しているだけだ」(外務省報道官)と白々しい言い訳をしたためだ。現場海域の気象状況は特に悪くない。ロレンザーナ氏は「私は(中国の説明を信じる)愚か者ではない」とも述べた。

 フィリピンが怒り心頭に発するのには理由がある。フィリピンと中国は2012年、南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領有権をめぐり対立。フィリピンが自国のEEZ内にあると訴えたが、中国船が居座り、現在も中国が実効支配を続けている。今回の中国漁船を放置すれば、「スカボロー礁の再来」となりかねない。

南シナ海・南沙諸島のサンゴ礁のくぼみ部分に集まる中国漁船=3月22日(フィリピン国軍提供・共同)
南シナ海・南沙諸島のサンゴ礁のくぼみ部分に集まる中国漁船=3月22日(フィリピン国軍提供・共同)

 停泊の長期化を受け、フィリピン外務省は12日、中国の黄溪連(こう・けいれん)駐フィリピン大使を召喚し、「地域の緊張を高める原因になる」と不快感を示した。ロクシン外相は14日にも中国側に抗議したことをツイッターで明らかにした。

 

「習氏を愛している」 親中貫くドゥテルテ氏

 こうしたフィリピンの激しい対応は、中国への配慮を示し続けたドゥテルテ政権としては異例のものだ。

 

 フィリピンのアキノ前大統領は、南シナ海での中国の覇権主義に対して、各国の先頭に立って反発した。オランダ・ハーグの仲裁裁判所は16年7月、中国が主張する南シナ海での主権は「違法」との裁定を下したが、裁判はアキノ前政権が申し立てたものだ。

 ところが、裁定直前の6月に就任したドゥテルテ大統領は同年10月に訪中し、習近平国家主席と会談。仲裁裁判所の裁定を棚上げして各方面の協力で合意した。経済面での見返りを期待したためだ。ドゥテルテ氏は18年には「習主席を本当に愛してる」とも発言している。

 ドゥテルテ氏はもともと米国嫌いとされ、スカボロー礁をめぐってオバマ米政権(当時)が中国の実効支配を事実上黙認したことについて、「米国だけが中国の進出をとめられたのにしなかった。だから米国は嫌いだ」と発言したこともある。自身が主導した「麻薬撲滅戦争」をめぐり、米国が超法規的な掃討作戦に苦言を呈したことも、米国との間に溝ができる一因となった。

 

くすぶる対中不信感

 今回の漁船停泊をめぐって、ドゥテルテ氏は6日、報道官を通じた声明で、「外交ルートと平和的手段によって解決する」として対立激化を避けたい考えを示した。南シナ海問題は「友好関係や新型コロナウイルス対応、経済復興における協力を妨げるものではない」とも述べ、親中姿勢を崩さなかった。

 

 ただ、融和姿勢を取っても、中国はそれに乗じるように南シナ海進出を続けており、「ドゥテルテ政権内部には中国への不満が相当蓄積している」とは地元ジャーナリストの分析だ。

南シナ海・南沙諸島の海域で隊列を組む中国漁船=3月(フィリピン政府提供・共同)
南シナ海・南沙諸島の海域で隊列を組む中国漁船=3月(フィリピン政府提供・共同)

 国内でも中国への警戒感は根強い。シンガポールのシンクタンクがフィリピンの学識経験者やジャーナリストらを対象にした調査(2月発表)によると、「世界の平和、安全、繁栄に貢献するために、中国が正しい行動を取ると確信するか」との質問に対し、「確信しない」「あまり確信しない」とした回答は8割以上に達した。

 

米国との関係修復狙う?

 今回の中国漁船停泊を受け、ぎくしゃくしていた米比関係は接近の兆しも見える。ブリンケン米国務長官は今月8日、ロクシン氏と電話会談し、停泊を続ける中国船団への懸念を共有した。12日からはコロナで昨年は見送られた米比両軍の合同演習が始まった。

 

 ドゥテルテ氏としては、中国の対立が本格化することは避けたい一方で、同盟国重視を打ち出すバイデン政権が誕生した米国に接近し、一定の対中牽制(けんせい)効果も期待しているようだ。

 フィリピンは来年に大統領選が行われるが、再選は禁じられているためドゥテルテ氏は出馬できない。長女で南部ダバオ市長のサラ・ドゥテルテ氏(42)の立候補が取り沙汰されており、ドゥテルテ氏は同時に行われる副大統領選に出馬するとの観測が流れている。

 国内に反中感情もある中で、国民の怒りに直結しかねない領土問題で対応を間違えれば、「ドゥテルテ一家」への逆風ともなりかねない。ドゥテルテ氏のかじ取りと今後の発言が注目される。産経新聞

 フィリピンでの中国の蛮行は、日米比台の防衛連携の好機にすべきである。ドウテルテ大統領の親中路線は比の領土が奪われることになった。中国は無法国家であるのである。オバマ米政権時代の中国宥和政策の失敗だ。同時にドゥテルテ大統領の親中路線もだ。でも、このことは、中国にはプラスにならない。国際社会は民主主義国家は連帯をすべきである。