18日、オンラインの米民主党大会で大統領候補に正式指名され、モニター画面に映し出されるバイデン前副大統領(左)とジル夫人(ゲッティ=共同)

 【ワシントン=黒瀬悦成】11月の米大統領選で民主党のバイデン前副大統領が当選した場合、次期政権の対中政策はどうなるのか。18日に採択された党綱領などから読み解く限り、経済や安全保障など広範な分野で中国に付け入る隙を与えたオバマ前政権のような「対中融和」路線に回帰していく恐れをはらむ。

 党綱領は「次期政権」の対中政策に関し、中国政府による経済や安全保障、人権に関する重大な懸念を「明確、強力かつ着実に押し返していく」と表明。中国による為替操作や違法な補助金、知的財産の窃取などの「不公正な貿易慣行」から米労働者を保護すると明記したほか、中国などによる国際規範の弱体化を図る動きに対しては「友邦・同盟諸国を結集して対抗していく」と強調した。

 クリントン元国務長官を大統領候補に指名した2016年の前回党大会の綱領が「中国の対応に適切に対応する」などと言及するにとどめていたのに比べれば、一定の踏み込んだ立場を示したといえる。

 綱領はまた、気候変動問題や核不拡散問題など米中の利害が一致する分野で協力を進めていくとした。

しかし今年の綱領は、中国が米本土に到達可能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を含む核戦力を増強し、南シナ海では人工島の軍事拠点化などを通じて海洋覇権の拡大を進めているにもかかわらず、「民主党は、中国からの挑戦は基本的に軍事的なものでないと信じる」と指摘した。

 綱領はさらに、中国との全面対決姿勢を強めるトランプ政権に対抗する形で「民主党は自滅的で一方的な関税戦争に訴えたり、『新冷戦』のわなに陥ったりしない」と強調した。しかし、トランプ政権による中国のハイテク覇権や軍事的覇権の阻止、不公正な貿易慣行の是正、中国による新疆(しんきょう)ウイグル自治区などでの人権抑圧への制裁といった取り組みは、オバマ前政権を含む歴代米政権によって積み重ねられた対中政策のゆがみを正すものだ。

民主党の主張は、現政権による一連の対中圧力を「米国が『新冷戦』を仕掛けている」と断じる中国の習近平政権による対米批判に極めて似通っている。

 民主党ではサンダース上院議員を筆頭とする急進左派の影響力が確実に強まっており、バイデン政権が誕生すれば急進左派が唱える「軍事費削減」が急速に進む可能性がある。

 実際、綱領は「国防支出を減らしつつ軍事力を維持し米国の安全を守る」と明記。南シナ海問題では「中国の威嚇的行動に抵抗する」としているが、軍事力の裏付けなしに中国の挑戦的行動をどう抑止するのか、綱領や民主党指導部の発言からは見えてこない。

「ニューズウィーク日本版」

 バイデン大統領候補の政策は親中路線であり、オバマ政権の対中融和路線でしかない。中国の大軍拡、領土拡張、貿易の不公平、中国共産党の香港、ウイグル、チベットでの人権問題に沈黙するか。