28・3・12

 近代美術史などを専攻している高木範義の著書である。「パリの魅力は何だろう、さんざん考えた結果がこの一冊になった」と著者が述べているように美術、料理、ファッションなど、さまざまな分野でパリの文化をひっくるめて生き生きとした多面性に觸れている。

 私の乏しい経験からして、パリ、北京、京都の三つの都市に魅力を感じていて、死ぬ時はそのうちのどこかにしたいと考えたこともあった。

 大ざっぱな言い方をすれば、私は、どちらかと言えば国際派ではなかったので、外国もせいぜい四、五十ヶ国ぐらいしか行ったことがないので、大きなことは言えないが、やはりパリは断然いろいろな面において魅力のある都市であった。

 初めてパリを訪れたのは昭和三十年八月であった。十日間程の短い滞在であったが、大蔵省の予算編成の責任者に会って、丸二日間夜遅くまで予算編成に関して色々疑問点をただすことに費した以外は、もっぱらパリ市内を独りで散策するのに明け暮れた。

 当時は一日十五ドルの外貨に限られていたので、毎日の行動は専ら地下鉄とバスであったが、地図と案内書と睨めっこしながらの旅程の決定はそれなりに楽しかった。

 英語の通じ難い国であったので、ポケット版の日仏会話事典を懐にし、レストランの食事にもそれを拡げていたが、何を食べてもおいしい気がした。

 パリには、その後、何回訪れたろう。眼の色を変えてブティックの店を渡り歩く家内のお伴も何回もしたし、私の好きな画廊で時間をつぶしたりもした。

 パリの魅力についてこの本はなかなか良く書けている。懐かしい思い出の場所に巡りあった気もする。

 ここ十年パリの街を歩いていない。年でもうチャンスはないかと思うと淋しいが、せめて、本でパリの街を歩いた気になってみたい。