28・2・28
数年前から朝日新聞が夏目漱石の同新聞に掲載した小説の再録を始めたのには一寸驚いた。始めて読むものはないが、それでも時間のある時に読んでいる。面白い。
ところで、他の新聞が真似をするかと思ったら、全然それはない。
第一朝日新聞は何を思って、そういうことを思いついたのだろうか。いろいろ叩かれたりしたから、昔のものを再録するのも無難でいいとでも思ったのか、どうもその辺の動機は良くわからない。
しかし、気がついて思うのは、百年ぐらいも前に書かれた漱石の小説がそんなに古い気がしないことでもある。人の心理というものはそう変らないせいなのかな、と思ったり、こっちが年をとったせいかな、と思ったり、ふと考え込むこともある。
漱石は大学の教授の職も投げうって文章一本で立つことを決めたわけである。確か虞美人草がその第一作であると思うが、やはり、やるぞと身構えた時の小説は何となく二百十日や草枕などよりも余裕がないような気がする。人間固くなると、何をしてもその人の力を十分に発揮できないのかな、と思ってみたりする。
とは言え、再録を楽しんで読んでいることも事実である。