藤沢周平の描いた雲井龍雄の生涯である。本名は小島龍三郎、米沢藩組外五石二人扶持の下級潘士で、米沢袋町の中島家の次男として生れ、十八の年館山口町小島家の養子となり、小島姓を継いだ。雲井龍雄と名乗るのは慶応四年以後である。

 明治維新の激動期に軽輩の身でありながら、米沢藩の将来を、国政の行方を憂え、志士として積極的にかかわり合い、潘主にも認められる存在となり、奥洲列藩同盟の結成などにかかわり合った実績から、維新後まことにこころならずも反政府者として小伝馬町の獄舎に送られて斬られ、その首は小塚原の刑場で梟された。

 志士の一人の生涯の記録であるが、明治維新の大変動期における世情人心の流れを知るようすがともなった。藤沢周平の筆は変らず簡にして平明である。