26・8・16

 ここで採り上げているのは昭和二十三年八月十五日終戦後にソ連軍によって、いわば拉致された六〇万将兵のことである。

 ソ連邦もポツダム宣言の署名国に一つであるから、戦争後当然に満州、北朝鮮、樺太、千島に在留していた日本の将兵、民間人は便船のあり次第速やかに内地に送還することになっていたにも拘わらず、それらの地域にいた日本軍の将兵をシベリア奥深く、ヨーロッパにまで引っぱり込んで強制労働に服せしめたのである。そのため、飢餓、病気(T・B、発疹ティッスなど)などのために六〇万人の一割六万人が帰国の夢を見ながら亡くなったのである。

 われわれの団体はこの抑留者の会であって、ソ連邦に対して謝罪と賠償を要求し続けて今日に到っている。

 日ソ間には不可侵条約が存在したし、前に述べたようにポツダム宣言もある。それを無視しての行動を謝罪するとともに強制労働の賃金支払を要求しているのである。請求権に関しては昭和三十年の日ソ共同宣言の第六項に相互に放棄することが記されているが、北方四島の返還に関する第九項と併せて、改正を要求している。

 政府(外務省)は第六項に関しては他人ごとのように冷たい取扱いであって、われわれ抑留者の団体としては極めて不満であり、納得し難い。

 以上のような問題が日ソ(今は日本と旧ソ連邦の各国)間に存在することについて、何故、学校の教科書に載せてくれないのか、全く承服し難い。

 文部省(現在文科省)に抗議したが、答えは教科書の検定は、提出されて来た教科書の誤りを正すのが目的で、積極的に書くべき事項を指示することはできない、というものであった。 

 そんな馬鹿なことがあるか。それならいっそ戦前のように国定教科書にして、この問題に限らず、日本政府が主張しているもろもろの事項について政府の立場を明らかにする記事を載せるべきではないか、と思っている。

 確かに日本は戦争に負けた。だが、戦後先人の努力でここまで生長、発展をして来た。れっきとした世界の一国として要求すべきものは要求するという毅然とした態度をとるべきではないかと思う。