何と言っても人間も食べるものがなければ生きられない。世界の人口は増えている。もともと食糧自給率の低い日本にとって農業生産の維持発展が重要なのは言うまでもない。

私は、昭和三十年代の後半、大蔵省主計官として四年間農林予算を担当した。当時は経済の高度成長期にあったので、今よりは遙かに予算の枠にも余裕があったので、農林省の幹部連中と一緒になって、農業の近代化に取り組んだ。農業基本法が制定されて、米麦中心の食糧増産から畜産、果樹を中心とする農業の選択的拡大を主眼とする転換が唄われた頃である。

構造改善事業や近代化資金の制度を創設し、土地改良事業費を農業基盤整備費と改称し、農業機械化研究所を創設するなど、農業の近代化に向けて真剣に取り組む機運に満ちていた。

米の増産を目的とする田畑転換や干拓などの土地改良事業の新規着工は一切認めないとする強い方針を打ち出して紛議を巻き起こしもした。

しかし、今から振り返ってみると、そのような改革を行うのに充分な態勢が整えられていたか、いささか反省を籠めて思わざるを得ない。

根本に戦後の自作農創設、維持の基本理念が本筋として打ち樹てられている。それを転換しようとするのには容易ならぬ反対がある。全国の農業委員会、農協など農業関係団体の存続をかけての強い抵抗があった。

農業の生産性を高めなければ外国に太刀打ちできない。そのためには機械化の導入、耕種改善の推進などの思い切った施策を推進することが必要であるが、同時に小規模の農地の利用効率を高めるためには、農地保有、賃貸を含めた利用制度などについて改革をしなければならない。農業生産法人の制度は利用されるようになったが、未だに株式会社の農地保有、利用は認められていない。

認めた場合の副作用を心配するのはわからないでもない。しかし、農業に限らず水産業等も沿岸漁民対策は必要だが、やはり思い切った制度改革をすすめないか、外国勢に立ち遅れると言われている。

政治の構造と複雑に絡み合っているし、それこそ簡単に結論を出す訳には行かないにしても、問題意識をもっと強くもって改革を進めなければならないと思う。

TPP加入問題も楽観できないと思うにつけて焦りを覚えるので一筆した。

もっとも、改革に伴う対策については、関税率の維持努力などにかかわらず、抜本的に検討し、推進して貰いたいと思う。しかし、身を切らなければ実現できないこともある。