中国のことである。大分前議員仲間と中国に出かけた際、ダムの建設現場に案内されたことがある。とてつもなく広い広場に蟻のように沢山の人夫が働いている。重機などは一台もない。トラックも見かけない。鍬とシャベルである。何人かと尋ねるとさあ五、六千人ですかね、と言う。それでも見ているうちに何となく地形が少しづつ変って行く。数の力である。

その時、現場に行くのに道路を拡張するために並木を動かしているところを見た。一本の木に一〇人ぐらいづつ囲んで固まっているので、何をするのか、と思っていたら、並木を何メートルか動かすのだという。何百本もの木である。然し、帰りに同じ道を通ったら、並木は綺麗に移動していた。

 それよりずっと前のこと、私が武漢地区の旅団司令部で経理勤務班長をしていた時である。

 塩の輸送が必要となった、トラックが足りない、どうするかと聞いたら人夫に担がせ行くという。塩の俵は七〇キロはある、それを背中に担いで、暑い日中を七、八時間も歩くのである。一〇〇人もいたか。七トンの塩はトラック二台分ぐらいあるが、きれいに運搬されたのである。

 数の力は恐ろしい。その数を支那は持っている、という印象が強かった。従って、これに対抗するのは智恵が要る。数でやれないようにするには先手を打たなければならない。教訓である。