旧制高等学校の仲間にはいろいろな人物がいた。当時、中学校は5年制であったが、4年終了すれば、高校の受験資格があった。その四年で入学して来た1人はなかなか大人びて、寄宿寮の寮生であるのに拘わらず、外にも部屋を持って、彼女を置いていた。その彼は至って不勉強で、1年落ちて私どもと同じクラスになった。
学期末の試験の時の哲学の出題は、「カントにつき知ることを記せ」という題であったと思うが、彼の答案は「カントはドイツ人である、カントは哲学者である」と二行であった。哲学の担当の教授は、この答案に50点を与えた、旧制高校にはそういう先生がいた。
その答案を書いた人物は2年遅れて大蔵省に入省してきた。