25.5.31
終戦の年スウェーデンのストックホルム駐在の杉原公使は独断で七〇〇〇人ものユダヤ人に日本国経由で出国する旅券にヴィザを与えた。
人道的処置として、広く世の絶賛を得て、彼の行動をたたえる声は尽きない。
私は、まてよという感じを永らく持っていた。何故か。旅券のヴィザは大事な国としての権限の一つである。本省が禁じていたことを一外交官僚の判断で破っていいものか、例え百年に一度あるか、ないかの切羽詰まった情勢のもとに、人道的見地から判断したとしても、行政官が原則に違反した事実がなくなるものではない。
戦争中であるにしても無線もある。連絡を取ろうとすれば出来なかったことはなかったろうと思うのに、そういうことはなく、領事故人の判断でヴィザを与えたことは、本当に妥当な行動であったのだろうか。
私は誤解されてもこまるが、杉原領事の行動を批判しているのではない、ただ、物事の片面だけを見て、いいことをしたと、無条件に賛意を表する訳には行かないような気がしているだけなのである。