24.10.19

平成八年二月二十六日亡くなった司馬遼太郎さんを悼んで各界の人が綴った哀悼の記を集めたものである。戦後あれほど広い層の人々に愛され、好まれた作家はいないであろう。夏目漱石になぞらえる人もいるが、肌合いは少々違う気がするが、正にそうだとも思う。

私も、いつの頃からか彼の作品には魅せられて読むようになり、殆んど凡ての作品を読んだ。とくに「街道を行く」は週刊朝日で毎号楽しみにして読んでいたが、終りの頃、単行本として出版された四十三全冊を一括買って初めから全部読んだ。日本全国どころか、外国までの彼の足跡に歴史がついて回る。その楽しみで全巻読み通した。

有名となった乃木史観など、世間の人にも、私にも多少の異見があるところもあるが、独特の文章は何と言ってもすばらしかった。

ホテルオークラの本館五階オーキッドバーの隅の定位置できれいな白髪、黒メガネで談笑している氏には何回か御挨拶をする機会があったが、年はいくつも違わないどころか、私の方が四、五歳も上なのに、何故か人を包み込むような笑顔が暖かい雰囲気を生んでいた。

彼のペンによって何人もの歴史上の人物がそこに生きているような姿を浮かばせてくれた。そんな思いをさせる文章はザラにあるものではない。

彼の作品は未だいくらか読み残しているが、読み盡したら後がなくて淋しい、と思うと、少しづつ丁寧に読んでみたい気がする。ある意味で羨ましい作家である。


レクイエム司馬遼太郎/講談社
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