米国の経済不振、欧州の経済危機などによって、ドル安に加えてユーロ安が加速している。この時期に、私はデノミの実施に踏み切るべきであると思って、敢て提言する。

 100円を1円とするデノミネイションであって、無論円の切下げではない。

 1960年(昭和35年)にフランスが100フランを一ヌーヴォー・フランとするデノミを実施したのが大国のデノミの最後の例である。イタリアのリラはEUに吸収され、実質的にデノミとなったと見られる。

 デノミのメリット・デメリットに関しては、沢山の意見があり、又、意見が分れるところであるが、私は、今、デノミを実施したら、1ドルは78銭、1ユーロは96銭ぐらいとなるが、円高もこのレベルでそう長く続くものとは思われないので、早晩、1ドル・1ユーロ、1円に近い関係が出来てくるのではないか、と思っている。

 デノミについては、1970年代の初め、実施の方向でかなり盛り上がったし、その後も度々議論は行なわれていた。

 かつて、景気、為替、貿易収支か安定していること、それに政情が安定していること、などがデノミ実施の条件であると言われていた。

 1971年(昭和四46年)にデノミ実施に踏み切ろうか、と水田大蔵大臣、鳩山事務次官と幣制担当の理財局長の私との間で眞剣に議論が交わされ、フランスのデノミの実態調査などを参考にして、実施計画案まで作ったが、ニクソン・ショックなどがあって経済條件が調わないとして、見送りになった。

 私は、その後、衆議院議員になった時、デノミの実施を政策に揚げていた。デノミ推進議員連盟を作って、会長となり、又、自民党の政務調査会の中にデノミ小委員会を作り、委員長として実施に向けての努力を続けていた。

 デノミはその時を得ずして、今日に到ったわけであるが、私のあと、デノミ推進議員連盟の会長はデノミに最も熱心であった鳩山威一郎の次男、衆議院議員鳩山邦夫氏に引き継いで貰っている。

 どうも、国内に不景気の波がじわじわと拡がっている。GNPは伸びないし、税収は伸びないので、ついに消費税率の引上げを民主・自民・公明の三党提案で実施することになり、法案が衆議院を通過している。

 私は、財政支出の増などによる景気対策が消費税の引上げより先だと、前から主張しているが、この際、局面の転換の意味もあって、是非デノミの実施を訢えたい。無論、問題は出てくると思う。デノミの実施に何かと経費がかかることは当然であるが、それも需要の喚起となり、GNPの1%ぐらいの引上げ効果はあり、景気対策ともなる、と思う。