24・6・11
 夏目漱石の夫人鏡子は悪妻であった、とよく言われている。ソクラテスの妻に比べられることもあった。
 その鏡子夫人が漱石について語ったことを松岡譲が筆録した表記の一冊を求めて、拾い読みしてみた。
 鏡子夫人の表記によれば、頭のわるくなった時の漱石は、いささか常規を逸して手がつけられないところがあった。
 50才余りの、今の世の中にしてみれば全く短い人生のなかで、本を書いていた間は限られていたであろうし、その間も屡々、そして時には、かなりの時間胃を病んでいた漱石の残した文章は、本当に立派なものだけに、日常の起居の姿とどのように結びついていたか、は興味を覚えるところである。
 しかし、私は、作家も画家も、その創造した作品をもって評価すればよいのであって、その日常の生活がどうであったか、などを、それほど大きな問題にする必要はないと思っている。曽野綾子さんもその趣盲のことをよく書いているが、私も全く同感である。
 私にとって、漱石は一番早くから接した作家であり、そして最も敬愛する一人であるから、とくにその思うのである。