24.5.20
本を読みながら音楽を聞いている。今晩はシューベルトのアヴェ・マリアが最初であった。
戦前、学生の頃「未完成交響楽」という題の映画を何回も見た。ハンス・ヤーライがシューベルトでマルタ・エガルトが美しい娘となって登場する。
シューベルトが教室で子供に歌を教えながら「野バラ」を作曲する過程はまことに楽しく、そして最後はアヴェ・マリアの曲とともに字幕に「わが恋の終らざるがごとく、この恋も亦終わらざるべし」とかいう言葉が現われて終る。
そのアヴェ・マリアの歌は深く心に刻まれる思いがした。
それから数年たって、私は中支の漢口で軍司令部の主計将校として連日連夜、米軍機の爆撃に曝されていたが、ある晩、友人の商社員の粗末な部屋で未完成交響曲を聞いた。彼の嬉しそうな顔を今でも思い出すが、その彼も、間もなくさよならを言って別れて以来もう半世紀以上経っている。
往時茫々とはよく言ったものだ。しかし、シューベルトと聞くと戦火の間の一刻の安らぎを思い浮かべるのである。
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