24.3.26
来月の歌舞伎は久しぶりに忠臣蔵を晝夜通しで上演するという。
思い起すと約七十年前高校に入ったばかりの私が下町育ちで芝居に精通している同級生のYと生れて初めて歌舞伎を見たのが忠臣蔵の道行旅路の花聟で六代目のおかる、羽左衛門の勘平、三津五郎の鷺坂伴内であった。
三階の立見席は一人八十銭(普通の幕は五十銭)であった。友人はよく透る声で盛んに声をかけていた。
十代の私には大きな感激であって、それからが友人との歌舞伎座、東京劇場、新橋演舞場、明治座、新宿第一劇場の五座巡りの始まりであったのである。
しばし現(うつつ)とは違う別の世界に遊ぶ楽しみがあった。
もうとうに亡くなったYの掛け声がよみがえるような気がする。