23・12・23
水上勉の女遍歴の何こまかで、たぶんかなり実話ではないかと思う。舞台の場所、相手のひとの実名は無論伏せてある。煎じ詰めて行けばわかるかもしれないが、そんなことはこの作品を読むのに要らないことである。
北陸の山の中の寒村に大工の息子とし生を亨け、10才で僧院に出されてから、破戒僧として、還俗して苦学しつつ作家として育って行った彼は私と同年で親しく、家もごく近所ということもあって酒を汲みかわしながら夜更けまで語ることがあった。彼の女性とのかかわり合いをいくらも聞かされた、彼の女性観は女は怖いものですよの一言に書きるかも知れないが、その言葉は同時にこの世の半分、いや半分以上は女性のものですよという女性礼讃の心の裏返しではなかったろうか。
その彼も自分で焼いた骨壺の中に収まっていると思うが、この一冊も世の中の出来事を見据えた彼の眼の鋭さと余計な文字のない文章力を感じさせる。