23・10・1

 このシューベルトの「未完成交響楽」を題する映画を見るのは何年ぶりだろうか。高等学校へ入った頃であるから70年以上経っている。その間戦前又度見ているから三度目である。DVDという重宝なものが出来てくれたからこうして自宅にいながら昔のフィルムを見られるというのは思ってもいなかった。

 シューベルトの作った交響楽をウィーンの宮廷で演奏中空然伯爵令嬢の鳴りひびいた笑い声に怒って演奏を中断して帰ったシューベルトが招かれてその令嬢の音楽教師となるや二人が愛し合って結婚を誓うが、父伯爵の強い反対に遭って諦める。が、その令嬢の結婚の式に令嬢の妹に呼び出された彼がかって中断した交響楽を演じ始めるが、令嬢が笑った箇所で失心して演奏は又も中断をする。シューベルトは中断した所からの楽符を破り捨て、残された楽符の余白に「わが恋の終らざるごとくこの曲も終らざるべし」、と走り書きをするという荒筋の恋物語である。むずかしい映画ではないが、黒白ながら美しい場面が沢山あるフィルムでシューベルトの歌曲のメロドィがふんだんに流れ、最後はアヴェ・マリアで結ぶという甘い悲しみの遺るドイツ映画である。

 シューベルトはハンス・ヤーライ、令嬢はマルタ・エゲルト。このコンビはまだ一作「鶯」があったと思うが、他は思い出せない。