23・6・15

 瀬戸内寂聴がまだ晴美の名の頃の本である。出離し、剃髪して間もなく嵯峨野に居を移してからの日々の暮しの細やかなエッセイである。

 寂聴さんとは、彼女の作品「京まんだら」に家内が主演した舞台の初日に御挨拶をして以来、作品を通して親しく思っている。年も近いと思う。ことに最近は毎日曜ごと日経新聞に載せている「続・奇縁まんだら」を毎回楽しく読んでは彼女の交際の広さ、観察の深さ、文章の的確さに感じ入っている。

 去年家内が乞われて村長を十数年している岐阜県旧明智町の大正村での大正百年(平成23年)を記念しての企画の重案な目玉として彼女の講演を私からのお願いしたところ快く引き受けて下さった。

 この時は彼女の腰痛のため講演は実現しなかったのはまことに残念であったが、大正生れの1人として大正ロマン、大正デモグラシーの大正時代への思いは深かったことが電話先の口調でもよくわかっていた。

 ともあれ、この「嵯峨野より」はさまざまな人生経験を経て出離をした彼女の心境を余すところなく伝えているように見えて、私の心にしみいるようであった。佳作。講談社。